大学や公的な研究機関で働いているものの、任期制の雇用のために毎年の契約を気にしながら研究を続けている人たちが数多くいます。
私自身、大学院で博士号を取得した後は、国立の研究機関で任期制の博士研究員として研究していたことがあります。いわゆるポスドクというやつです。
ポスドクになって経験したこと、それは自由に研究もできず、研究不正がはびこり、雇用も安定していない、三拍子そろった地獄のような環境でした。
このままずるずるとアカデミアで研究を続けていたらどうなってしまうのだろうか?そんな不安が頭をよぎりました。
しかし、勇気を振り絞って外の世界に飛び出してみようと決意した瞬間、私の人生は大きく変わりました。そのときの経験をもとにして書いたのが、「研究室を脱出せよ!〜ポスドク転職物語〜」という転職体験記です。(30ページくらいあるので、時間のあるときにゆっくりと読んでみてください。)
・研究室を脱出せよ!〜ポスドク転職物語〜|若手研究者がアカデミアから民間企業に転職するまでの、すったもんだのお話し
ひと昔前までは、博士号をとった研究者はアカデミア以外では活躍することもできず、ただただ低賃金で不安定な任期制研究員(という名の非正規雇用者)を続けるしかないと考えられていました。
ところが、好景気による売り手市場の登場と、高度教育を受けた人材に対する民間企業のニーズの高まりによって、そのような「かわいそうな博士」像は過去のものとなりつつあります。
ここではアカデミアでの研究に不安をいだきつつ、この先どうしたら良いのか悩んでいる全てのポスドク・若手研究者に向けて、転職するために必要な考え方や具体的な方法についてまとめました。
アカデミアは沈没寸前の泥舟のようなものです。行動力のある人はすでに逃げ出してしまいましたが、今からでもまだ間に合います。豊かで実りある人生を送るためにも、是非とも最初の一歩を踏み出してみましょう。
目次
最初の一歩を踏み出そう
長いことアカデミアで研究を続けてきた人にとって、民間企業へ転職するというのはどういうことなのか、想像もつかないと思います。
そんなときはうだうだと考えていないで、さっさと行動に移しましょう。転職で大事なのは、とにかく行動を起こすということです。
具体的にすること、それは「転職エージェント」を活用することです。
転職をするということは、転職エージェントを使って企業を探すこととほとんどイコールだと思っておいて間違いありません。自力で企業を見つけるなんてことをする必要はありませんし、ほとんどの場合うまくいきません。
転職エージェントについては、以下の記事で詳しく解説しました。
・転職を考えている研究者が知っておきたい転職エージェント3選とその活用法
どの転職エージェントが良いのか分からないという人は、まずは以下の2つのサイトがおすすめです。
ひとつはリクルートが提供している転職エージェントサービスの「リクルートエージェント」です。いわゆる総合系の転職エージェントサービスを展開しており、あらゆる種類の求人を網羅しています。
【公式サイト】 【リクルートエージェント】
もうひとつは外資系企業の求人に強い「JACリクルートメント」です。後述するように、外資系は研究者の転職先としておすすめです。
【JACリクルートメント公式サイト】 外資系企業への転職ならJAC Recruitment
これらのサイトに登録したら、実際に転職エージェントの人たちと話してみましょう。アカデミアという狭い世界から一気に視野が広がり、民間企業で働くということがありありとイメージできるようになるはずです。
転職するときに知っておきたい「職種」と「業種」
転職すると言っても、さていったい自分には何ができるのだろうかと考えこんでしまうかもしれません。
そういうときは、「職種」と「業種」という観点から転職先を考えてみましょう。
研究者の転職というと、製薬企業などの研究職を思い浮かべるかもしれませんが、実はこれはかなり困難です。私のおすすめは、研究職以外の職種、いわゆるノンリサーチ職への転職です。
これについては、以下の記事でも詳しく書いてあります。
・研究者の転職先は研究職だけ?意外と魅力的なノンリサーチというキャリアについて。
研究で培ったスキルや知識をいかしつつ、マーケティングやアプリケーションサポートなどの職種にチャレンジしてみるのが転職を成功させる鍵になります。
転職してどの程度の年収を目指すか
研究者が民間企業へ転職することで、いったいどのくらいの年収が稼げるようになるのか、というのは興味深いところではないでしょうか。
結論から言うと、転職後10年以内に年収800万円というのを一つの区切りとするのが良いでしょう。
年収800万円は民間企業の給与としてはかなり恵まれた水準です。博士号という肩書をもっていることで、こうした待遇を受けられる確率が高まるのです。
ただし、いきなり800万円を目指すのではなく、いくつかのステップを踏みながら目指してください。具体的には、年収アップのための転職を繰り返していく方法をとります。
詳しい方法については以下の記事を参考にしてみてください。
・アカデミアの研究者が民間企業で年収800万円を稼ぐための戦略的転職法とは?
いわゆる転職市場における自分の価値を知りたいときは、MIIDAS(ミーダス)というアプリがお勧めです。200万人以上のデータをもとに、自分と同じようなキャリアをもつ人材がどのくらいの年収で転職しているかが正確に分かります。登録完了後すぐに、自分に興味のある企業からのオファーを受け取ることができるため、どういった企業への転職が可能かの情報収集にもつながります。
外資系企業という選択肢
研究者のスキルとして民間企業でもっとも有効なのは、実は英語力です。
私は日系企業でも働いた経験があるのですが、日系従業員の「英語ができない」と自分でいっているような人たちの英語レベルは、本当にびっくりするくらい低いです。たぶんTOEICで300〜400点くらいしかないはずです。
その点、英語論文の読み書きができ、海外の学会などでの発表経験のある研究者の英語力というのは、即戦力としては企業で十分に通用するものです。
確かに世の中を見渡せば、研究者に比べれば比較にならないほど英語力の高い人たちというのは大勢います。ただし、こういう人たちは実は英語以外のスキルは意外と低いです。
英語「が」喋れるのではなく、英語「で」仕事ができる能力というのは外資系企業ではすぐに役立ちます。
このあたりの事情は、以下の記事も参考にしてみてください。
・転職を考えている研究者の皆さん、外資系という選択肢がありますよ
転職に失敗はつきもの
アカデミアから民間企業への転職というのは、不安も多く、失敗したらどうしようと心配になる気持ちもあるかもしれません。
実は私自身、慣れない業界に足を踏み入れた際に大失敗をしてしまいました。この顛末は、以下の記事に書いてあります。
一言で言うと、監査法人という未経験の世界に気合だけで足を踏み入れたものの、自分の適正と全く合っていない仕事であることが分かり、それに追いかけるようにして相性の合わない上司による仕事のプレッシャーのせいで、心身ともにまいってしまった、という話しです。
はっきりいって、この転職は大失敗でした。
失敗というものはしないならそれに越したことはないのですが、何事もうまくばかりはいかないというのは、実験を繰り返してきた研究者の方ならよくお分かりでしょう。
大事なのは、失敗したときにそこからどうやってリカバリーするかです。
転職で失敗してしまい、心身にダメージを追ってしまうことも場合によっては起こりうることです。私が学んだこと、それはまずはしっかりと休養を取り、しばらく仕事から遠ざかること。そして自分に合っていない仕事は一刻も辞めてしまうことです。
具体的なプロセスについては、以下の記事で詳しく書いてあります。転職に失敗したかも、と思った際はこちらの記事を参考にしてみて下さい。
・転職失敗!?半年でうつ気味になったときに役立ったのは会社を辞めるための避難経路だった。
それでも研究に未練のあるあなたへ
ここまで、ポスドクや若手研究者に向けたの転職の考え方について説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。
現役の研究者の方で今の生活に不安のある方にとっては色々と参考になることもあったことと思いますが、いまいち踏ん切りがつかなかったり、ピンとこない人も多かったかもしれません。
その気持ちを整理すると、例えばこういうことではないでしょうか。
転職を考えるということは生活を考えるということであり、給料や昇進といった現実的な問題が急に目の前に広がってきて暗い気持ちになる。それよりは研究のことを考えていた方が、知的好奇心や夢があって気が楽だ。子供の頃からの夢だった研究を続けた方が幸せなのではないか、と。
そんな気持ちを持っている方に向けて伝えたいことがふたつあります。
一つ目は働き方に関する考え方です。
確かに研究は知的好奇心を満たし、ワクワクした気分で取り組むことができます。これほどエキサイティングな営みは日常生活の中にはあまりないでしょう。
一方で企業で働くということは、単調だったり、嫌なことをしなければならないことでもあります。もちろん仕事の中にやりがいや知的好奇心を見いだすことは可能ですが、それが研究時代のときと同じようなものなのかと問われると素直にうなずけません。
一時期、私も仕事のやりがいを求めて会計の資格を取ったり監査法人への転職などをしたこともありましたが、結局仕事の中に人生のやりがいを見つけることは難しいという結論に達しました。
私は自分の人生のやりがいや知的好奇心の充足を仕事の中に探すのではなく、それ以外の場所で見つけることの方がはるかに大事だということに気づきました。例えば、こうして研究者の方々に向けてキャリアについての考え方を伝える作業も自分にとってはかけがえのない時間です。
あなたが本当に心から満足できることは、仕事の中にしか見いだせないものなのでしょうか?趣味や家庭、それに副業など、世の中には仕事以外で輝けるチャンスが山のようにあります。特にインターネットが登場したことで、人生における可能性はかつてないほど広がってきています。
二つ目は身分社会の話です。
アカデミア内にいると気づきにくいかもしれませんが、現在の日本は正規と非正規雇用の間にとても大きな身分の壁があります。残念ながら非正規社員として働く人生では、仕事以外の場所で知的好奇心を満足させるような精神的な余裕を持てないかもしれません。非正規職の給与額や社会保障レベルは低く、働くためだけに生きるようなな人生になりかねません。
率直に言いまして、アカデミアにおけるキャリアの先には一部の狭き大学教員のポストを除いて非正規雇用以外の道はありません。そして、今後もこの傾向は変わることはないでしょう。私がアカデミアの世界を抜けてからかなり長い月日が経ちましたが、状況はほとんど改善していません。非正規雇用の問題がこれほど大きく叫ばれている中で、ポスドクなどの働き方に関する改善提案はほとんど何もなされていません。
もう少し言葉を変えます。アカデミアはあなたの人材としての価値を認める気は今も、そしてこれからも全くありません。アカデミアが欲しているのは学費を払ってくれる大量の大学院生と、非正規雇用でも文句一つ言わずに従順に教授に従ってくれるポスドク、そして本当にごく一部の研究者だけです。
一方で民間企業はあなたの研究者としての経験を欲しています。そしてこの傾向はこれからますます強くなっていきます。アカデミアの研究者が応募できる民間企業の正規雇用ポジションは、量・種類ともにこれまでに比べてはるかに拡大しました。
若手研究者のことを必要とせずにいつまでも非正規のままで拘束しているアカデミアと、研究者としてのあなたの能力と経験を必要としている民間企業、あなたならどちらを選びますか?
まとめ
以上が、転職を考えているポスドクや若手研究者に向けた具体的な行動の手順と考え方です。
冒頭にも書いたように、研究者の民間企業への転職環境は数年前とは比較にならないほど改善しました。いわゆる「かわいそうな高学歴ワーキングプア」というテーマはマスコミ的には魅力のある話題かもしれませんが、彼らの言うことに惑わされてはいけません。
大事なのは、転職しようと最初の一歩を踏み出すことです。そのために、ここに書かれた内容やリンク先の記事を是非とも徹底的に活用してみてください。
ポスドク転職物語について
私が初めて民間企業への転職を決意したのは、2010年の春頃でした。
その当時、実際に私が体験した転職までの道のりを物語風にアレンジしたのが、「ポスドク転職物語」です。
転職エージェントの使い方や自己分析のやり方のほか、アカデミアに蔓延している捏造や不正などの問題についても、それとなく触れています。ご興味のあるかたは是非とも読んでみてください。
・ポスドク転職物語|若手研究者がアカデミアから民間企業に転職するまでの、すったもんだのお話し
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