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転職しようといている研究者をアカデミアはどの程度真剣に引き止めるつもりなのか?

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多くの企業に取って優秀な人材が会社を離れてしまわないようにすることは、ある意味では優秀な人材を採用することよりも重要な課題といえるでしょう。

一方で日本は自由主義の国ですから、希望通りの働き方ができないとなれば自らの意志で転職することができます。

転職したい人とそれを引き止めたい企業。それぞれの思惑が一致したところで給与の水準は決まり、そうでない人を受け入れる場所として広大な転職マーケットが広がっています。

こうした健全な人材の流動性が、残念ながらアカデミアの研究者たちには用意されていません。また、アカデミアとしても優秀な人材を引き止めたいという真剣な思いはないようです。

今回は人材の確保で悩んでいる二つの業界に関するニュースを眺めつつ、アカデミアの人材引き止め(リテンション)の考え方について見ていきたいと思います。

大量離職する空港の保安検査員

NHKのニュースで以下のような特集が組まれていました。

http://www.nhk.or.jp/shutoken/miraima/articles/00625.html
成田空港の保安検査員 大量離職の背景は - MIRAIMAGINE(ミライマジン) NHK

リンク先の記事によると、成田空港の保安検査員900人にうち、およそ30%あまりが昨年度から離職したとのことです。こうした検査員の大量離職はここ数年続いているといいます。

その原因は、不規則な勤務などの過酷な労働にも関わらず手取りで月20万円ほどしかないという待遇の悪さにあります。

意外なことに空港の保安検査というのは民間の検査会社がおこなっており、航空会社の下請けになっているのだそうです。そのため待遇改善をしようにも航空会社が首を立てに振らない限りは簡単に給料を上げることができないという事情があるようです。

空港という空の安全を担う場所の、中でもその最前線である保安検査という職が、これほどまでに貧弱な雇用体制であるというのは驚きを通り越して恐ろしくなる話しではあります。取材の中でも言われていたように、2020年の東京オリンピックをひかえて訪日外国人が急増することが期待されている中で、保安検査員の待遇改善は急務といえるでしょう。

保育士の給与補助は倍増へ

そんな中、人材確保に苦労している別の業界からはこんな話題が出ています。

http://www.sankei.com/politics/news/170107/plt1701070034-n1.html
保育士給与補助倍増 東京都、来年度から4万4000円に

この記事によると、小池百合子都知事は保育士給与の補助財源として平成29年度予算案に事業費として244億円を計上する方針を固めたそうです。これにより保育士への給与補助は現在あるものと合わせて月額平均で4万4000円の増額になる見込みといいます。

東京都は待機児童の数が全国最多であることから保育施設の拡充が急務ですが、肝心の保育士の給与水準が低いことから人材確保が課題となっているとのことです。

保育というものはとにかく人手がかかる仕事であるのは間違いなく、そのための人材を確保することは子育てしやすい社会を実現するためには欠かすことのできないことです。

子どもの面倒などというものは1人みるだけでも大変なわけであり、それを大量に預かって管理するというのは、それ相応のスキルと適性が要求されます。保育士というのは本当に頭の下がる職業であり、その待遇を改善することは、都民の1人としても、また一児の父としても大賛成です。

「やりがい搾取」の先に見えるものは?

空港の保安検査員と保育士という、人材難にあえいでいる二つの業界をめぐる最近の話題について紹介しました。

どちらも過酷な労働環境ですが、めげずに働き続けている人たちも一定数います。それは、自分たちが子どもや空の安全を担っているのだという誇りやりがいなどといった、金銭的な理由ではない別のものを得られるからでしょう。

しかし現状は、こうしたやりがいだけでは食べていくことすらできない人たちが大量に離職せざるを得ない状況が続いています。働く人たちはやりがいが得られるからという理由だけで、不当に安い賃金で働かざるを得ません。まさにやりがいだけが搾り取られていく、やりがい搾取の状況です。

そしてこの姿は、大量の非正規雇用の研究員をかかえているアカデミアの姿と一致します。

誰しも研究者になって大金持ちになりたいなどと考える人はいないでしょう。研究という営み自体を愛し、やりがいを感じたいからこそ、あえて労働環境の厳しいアカデミアの世界に入り込むのです。

ところがいつまでたっても非正規労働から抜け出せず、家族を養っていかなくてはならない状況の中で、やりがいだけではどうにもならない現実にぶち当たるときが来ます。非正規雇用のポスドクたちが直面しているのがまさにこうした状況なのです。

人材確保のためにできることは?

保安検査員と保育士、どちらも日本という国にとって欠かすことのできない職業であり、優秀な人材を確保しておくことはもっとも重要な経営課題といっていいでしょう。

そんな彼らの明暗を分けるのは、結局のところ人材を確保するために給料を上げることができるのかどうか、ということになりそうです。

どんなにやりがいがあって夢をかなえられる職場であったとしても、結局のところ人をひきつけておくためには必要最低限の給料が必要ということです。これに付け加えるとするならば、労働基準法で過剰なまでに保護されている正社員としての安定した身分を保証することが、現代の日本の労働環境においては必須といえるでしょう。

保育士の問題については働き盛りの子育て世代が有権者に占める割合が特に都市部においては高いため、政策的な話題になりやすいという特徴もあります。それに対して空港の保安検査員の場合、彼らの待遇が悪くなることで影響を受ける人の割合は相対的に低いため、市民をまきこんだ議論になりにくいという側面があるのかもしれません。

アカデミアはどうやって人材流出を食い止めているのか?

このようにしてみると、研究というものはまさに人的資本が命といっても良く、いかにして優秀な人材を確保するかといったことはほかの職業以上に重要といってもいいかもしれません。

そういったたなかで、日本のアカデミアは人材の確保についてどのように考えているのでしょうか。

結論からいうと、文部科学省は人材を確保するための具体的なプランをもっていません。むしろ、余剰人員はアカデミアからいなくなって欲しいというメッセージを出し続けています。また、アカデミアで研究することができる人数を増やすことについてはこれまでも、そしてこれからも永遠にありません。空前の売り手市場にあぐらをかいたまま、黙っていても優秀な人材は集まるとでもいいたそうな態度です。

そもそも文科省というのは研究者を育成するための機関などではなく、あくまでも教員を管理管轄する役所という位置づけです。教員というのは要するに国家公務員なわけですから、その人数を増やすなどといったことは簡単にできるわけがありません。文科省レベルでできることといったら、せいぜいプロジェクト単位で有期雇用の研究者を雇用できるようにする枠組みを整備すると言った程度であり、安定した雇用を生み出すには程遠いと言わざるをえません。そしてご存知の通り、この枠組みこそがポスドク一万人計画の意味するところだったのです。

安定した職に就くことのできなかった研究者をどうやって「処理」するか。このことが文科省の頭を悩ましつづけています。彼らが目をつけているのは研究者を民間企業へ押し付けることです。そのために企業へ持参金を用意したり、ポスドクの就職斡旋などを積極的におこなっています。

どこの世界に、せっかく苦労して育てた人材を、不当な低価格で他社に売り渡そうとする会社があるのでしょうか。人材引き止め策をまったくもたないアカデミアの将来は、決して明るいものにはならないでしょう。

まとめ

大学や研究機関で働く非正規の研究者たちについて、文科省はいつまでもアカデミアに残るなというメッセージを出し続けています。そこには優秀な人材を引き止めておこうというメッセージは感じられません。

このブログで何度も述べているように、研究者のスキルや経験は民間企業でも十分に活かすことが可能です。ポスドクに対する求人ニーズは文科省のお膳立てなど必要ないくらい、着実に上昇しています。お前たちなんか要らない、といっている世界と、転職エージェントに手数料を払ってでも欲しいといってくれている世界。あなたならどちらでキャリアを築きたいと思いますか?

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