ポスドクをはじめとした非正規雇用の研究者たちの雇用環境の厳しさが続いています。
このブログでは研究者の道からどうやって軌道修正するかについて、私自身の経験をもとにした記事を色々と書いておりますが、今回は外資系企業への転職という観点からポスドクの転職について考えてみたいと思います。
目次
驚くほど少ない外資系企業の従業員数
まず始めに質問です。日本において、外資系企業で働いている人はどのくらいいるでしょうか?
日本国内における外資系企業の動向については、経済産業省が毎年公表している「外資系企業動向調査」に詳しく記載されています。
外資系企業動向調査(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/gaisikei/index.html
これによりますと、2014年度における外資系企業の常時従業員者数はおよそ63.8万人とあります。日本国内の雇用者数は5700万人程度ですので、日本人のたった1%ちょっとしか外資系企業で働いていないことになります。
これは自分にとっては衝撃的な数字で、私などは日本人の1割くらいの人は外資で働いているものだと勝手に勘違いしておりました。当たり前の話ですが自分の周りには外資系企業の従業員しかいないので、思わぬ錯覚に陥ってたようです。
これほど人数が少ないと外資系への転職というのは何か途方もなく遠い世界の話のように思われてしまうかもしれません。しかし、少なくともアカデミアで研究に長いあいだ携わっていた人にとっては、日系企業よりも外資系の方が転職しやすいのではないかと思っています。
研究者は外資系企業を目指してみよう
研究者が外資系企業を目指したほうが良いと思われる理由はいくつかありますが、思いつくところを簡単にまとめてみました。
Ph.Dへの偏見がない
偏見というと非常に誤解を生じかねませんが、日系企業でポスドクのポジションが作りにくいのは間違いないことと思います。日本でよくある年功序列システムに馴染まないだとか、そもそも学位所持者を雇い入れた前例がないなどといったことが主だった理由ではないでしょうか。
その点、外資系ではPh.D所持者を然るべきポジションで雇うことは一般的であって、それは日本国内の雇用ににおいても同じことがいえます。意外に思われるかもしれませんが、そもそも外資はスーパー学歴主義なので、シニアマネージャークラス以上になるとだいたいMBAかPh.Dを持っているケースが多いのです。
研究者の英語レベルなら問題なく勤まる
外資系というと英語がペラペラでなくてはいけないという誤解があり、それが転職の敷居を上げている可能性があると思っています。
外資で必要とされる英語力はポジションにもよると思いますが、研究者が日常的に使う英語のレベルがあればだいたい問題はないようです。私自身、英語は得意でも何でもありませんし、できることなら使いたくないとすら思っていますが、日常業務はなんとなくこなせています。
私はかつて一瞬だけ日系の会社にいたことがありますが、こういった人たちがいう「英語ができない」は本当に何もできないことに等しいことに注意が必要です。有名な大学を出て公認会計士の資格をもっている人が、「always」という単語を書けずに固まっていた光景は今でも忘れられません。
したがって研究者として普通に勤め上げている時点で、少なくとも英語は即戦力であるといってしまって良いのではないでしょうか。
結果主義はアカデミアに通じるものがある
外資でよく言われるのが結果が重要といった結果主義です。これについてはその通りだと思うのですが、そのマインドの根底にはアカデミアに通じるものがあるような気がしています。研究は論文を出してこそなんぼのものであり、その過程を重視する人はあまりいないでしょう。
これは逆に言えば、結果と関係のない余計なしがらみや社会のルールとある程度無縁でいられることを意味します。そういった意味では、研究者としての知見・経験「しか」求められない外資の空気というのは、アカデミアの研究者にとって非常に居心地がよく感じられるはずです。
(これに関してはあくまでも私の個人的な感覚なので、異論も多いかもしれません。少なくとも、私はもはや日系企業で働ける気がしません(笑))
よくある外資系企業の誤解
続いてよくある外資系企業についての誤解について書いてみたいと思います。ただし外資系企業といっても色々あるわけで、あくまでも私の周辺で起こっている範囲に絞った話であることをご了承ください。
外資系は高給?
一般的な外資系のイメージというと給料が高いということがあげられるかもしれませんが、少なくともスタッフレベルでは日系と対して変わらないと思います。私のような平社員だと、だいたい500−600万円くらいのポジションが多いと思います。
おそらく外資系というと金融やコンサルのような業種のイメージがあるために、このような誤解が生じているものと思われます。
ただしマネージャクラスになると途端に給料の上がりは良くなり、GM (general manager) と呼ばれるクラスになると2000−3000万円くらいもらっている人も珍しくありません。ただしこういったキャリアパスはポスドクからとは別経路のような気がしており、私には無縁の世界と思っています。
外資系は激務?
これも金融やコンサルのイメージが強いからでしょうか、外資は激務であるというイメージが強いと思います。ただ少なくとも私に関していえば、仕事は極めてマイルドです。
この部分については若干の種明かしになってしまうのですが、外資の日本支社というのは実は所詮は「日本営業所」であることが多いのです。研究開発や経営に関する機能は持っておらず、あくまでも営業部門の1部署程度の扱いなのですね。
したがって主な管理目標は売上だけであって、逆に言えば売上さえきちんと立てておけばそれほど複雑なことをする必要はないのでです。
この点は、仕事に人生のやりがいや意義を追求したい人にとっては極めて不満足な環境かもしれませんが、趣味や家庭を大事にしたい人にとっては会社との距離をしっかり持てるため、非常に働きやすいと個人的には思っています。
外資は英語が公用語?
これについては実はイエスでもありノーでもあります。
グローバルで重要な決定などがあるとそれらは英語のメールで伝えられますし、そもそも海外とのやり取りは全て英語です。そういった意味では、英語の読み書きができないと仕事にはならないといえばその通りでなのです。しかしあくまでも我々は日本営業所の社員ですので、仕事の大半は日本のお客さんとの日本語のやり取りになります。
繰り返しになるりますが、日系の社員が「英語に自信がない」といっているのと、研究者が「英語に自信がない」といっているのでは、その意味するところが3段階くらい異なっています。ポスドクの転職はこの認識の間隙を突くと、うまくいくような気がしています。
まとめ
冒頭で述べたように、日本国内において外資系企業で働く人の割合はわずか1%に過ぎません。
一方で、わたしの知り合いのポスドクたちの多くは外資系企業に転職しており、その割合が1%とは考えにくいです。つまり、ポスドクを始めとした学位取得者が外資系企業において高濃度に濃縮されているような、そんな印象をもっています。
アカデミアからの転職では、是非とも外資系企業を積極的に候補に入れてみてはいかがでしょうか。
※ ちなみに外資系企業への転職エージェントとしは、JACリクルートメントがもっとも有名です。
詳しくは ⇒ 転職を考えているポスドクが知っておきたい転職エージェント3選とその活用法