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空洞化していく日本の科学から若手研究者はどんどん転職するべし

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2016年のノーベル生理学・医学賞はオートファジー研究の大隅良典先生が受賞されました。日本人の単独受賞ということで、連日ニュースなどでも大きく取り上げられています。

大隅先生は受賞直後から基礎科学の重要性、そして若手研究者の待遇についてメディアを通して訴えておられ、このままでは日本の科学は衰退してしまうという危機感を述べられています。

これを受けてNHKのニュースでも特集が組まれ、大学の研究現場でおこっている「異変」について取材がおこなわれていました。

“日本の科学は空洞化する” 研究現場で何が…

2016年12月10日 おはよう日本 特集ダイジェスト
http://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2016/12/1210.html

私自身も元バイオ系研究者として数年間ポスドクとして研究に従事していましたが、当時から研究の現場に対する環境はお世辞にも良いとはいえず、特に若手研究者の雇用面での待遇は大変厳しいものでした。そのときの体験を描いたのが、このブログのタイトルにもなっているポスドク転職物語です。

ポスドク転職物語

今回改めてアカデミアが抱えている問題について整理し、結論として若手研究者はアカデミアを捨てて民間企業への活路をどんどん見出すべきだということを述べてみたいと思います。

アカデミアで何が起こっているのか

先程のNHKの特集では、博士課程に進学する学生が急激に減少していることが触れられています。平成15年には15%程度あった博士課程への進学率が、平成27年には9%程度まで落ち込んでいます。

何故このようなことが起こっているのかといえば、はっきりといって博士課程に進学するメリットがなくなってしまったからにほかなりません。

博士課程に進めばそれだけ学費がかかりますし、卒業するころには年齢も20代後半となるため新卒採用枠へのエントリーもできません。そうすると必然的にアカデミアへ残ることがになるわけですが、教員ポストは減少しており、ほとんどの博士修了者はポスドクという任期つきの不安定な非正規雇用として就職するしか道がありません。

これだけのデメリットを押してまで博士課程に進学するメリットとは何か。端的に言えばアカデミアはその答えを全く用意していません。博士課程への進学者の減少は必然なのです。

このような問題は私がポスドクとして研究をしていた5年以上前から既に分かっていたことなのですが、抜本的な解決は未だ見えません。そもそもこうしたことに責任をもって取り組むべき現役の大学教員は目先の業績をあげることで精一杯で、政策的な議論に参加する余裕がありません。その結果、先程のリンク先の北森教授や、ノーベル賞を受賞した大隅先生など、超大物クラスにならないと声を出せないという現状があるのだと思います。

優秀な若者がアカデミアを敬遠するのはもはや当たり前

アカデミアの抱えている問題とは、一言で言えば人材の空洞化です。

率直に言って自分のまわりを見回してみると、この人は研究者になっていたらさぞかし優秀な業績を残しただろうと思うような人は、アカデミアには残っていません。それではどこにいったかというと、例えばグーグルであったり、あるいは外資系の戦略コンサルティングなどであり、いずれも民間の企業で働いているのです。

何故このようなことが起こってしまうのか、アカデミアと民間企業の待遇を比較してみましょう。

民間企業の場合、業績重視の外資系企業などでは30代に満たない年齢で年収1000万円プレーヤーになることも珍しくありません。そのような極端な場合でなくても、学位取得者は上位5%程度の給与水準で働ける可能性が高いです。また基本的には正社員として働けるため、日本型の雇用システムに守られ任期を気にする必要もありません。最先端のサイエンスとテクノロジーの研鑽をつんだことが、民間企業の中ではこのような形で評価されるのです。

一方でアカデミアの場合、どんなに優秀でも科学技術の業績という不確定なもので評価される以上、論文が出せなければポスドクのポジションすら危うくなります。仮に優秀な成果を出していたとしても、単年度契約の契約社員(=ポスドク)としての身分を数年〜10年以上にわたって受け入れなくてはならず、さらに運良く常勤の大学教員になれるのはその中でもほんの一握りの人間だけです。

このような比較をすれば、なぜアカデミアの人材が急速に減っているのか良く理解できるでしょう。

大学という形にこだわる必要はもはやない

このような事情からアカデミアに残ろうとする若者は急速に減っており、大学の研究遂行能力は急速に低下していると危惧されているのです。

さきほどのNHKの特集によれば、日本の学術論文が世界に占める割合は急速に落ち込んでいるそうです。日本の研究能力の衰退化は、既に始まっているのかもしれません。

ここで私などが思うことは、もはや大学という役割に過剰な期待を持つべき時代は終わったのではないかということです。研究というものは何も大学だけができるものでもありませんし、民間企業で生み出されたイノベーションは数多くあります。そうしたものの多くは論文というアカデミアの旧態然とした形では表に出されないことも珍しくなく、そうすると日本の科学技術力といったものの源泉がどこにあるのか、もはやはっきりしたことがいえないのではないかということなのです。

若くて優秀な研究者の卵がアカデミアを目指さないということが、本当に日本にとって良くないことなのか、そのことを考えるときに来ているのではないでしょうか。

日本にこだわる必要だってない

同じような理由で、この手の話題に「日本の」と名付ける必要もないと思います。大事なことは個々の研究者が自分の人生において、研究という素晴らしい営みを満足しておこなえることであって、それが可能であるならば研究者は日本にこだわる必要はなく、海外でも民間でも好きなところに行けばよいのではないでしょうか。

日本の国力を低下させないために科学技術の底上げが必要であるというのは、まあそうなんだろうとも思いますが、それは大隅先生や北森先生のような重鎮クラスが国や政府などとしっかりと交渉してもらえばよいのであって、若手の研究者は彼らに気を使う必要はまったくないはずです。

そもそもそんな重鎮クラスの先生の中にだって、日本の科学技術政策にとっとと見切りをつけてアメリカやシンガポールなどに脱出して悠々自適に研究している人も一部にはいる現実を考えるならば、なおさら若手研究者が日本という国のことを気遣う必要などないように思ってしまうのですがどうでしょうか。

それでも学位を取る価値はある

とこのように、アカデミアの将来や日本の国力などといったものに若者は付き合う必要もないというのが私の今の考えなのですが、一方で学位を取得すること自体まで否定するものではないことを付け加えたいと思います。

それどころか、博士号というものは損得という単純な世界観の中においてさえ圧倒的な価値を持つ可能性があるのです。

まず、博士号を取るためのアカデミアで経験は、人生にとって間違いなく役に立ちます。論理的な思考能力仮説検証のプロセスはどんな分野にいっても応用が効くでしょう。

また、今後は一部の分野においてはPh.D.のキャリアが高収入に結びつく可能性もあります。

博士課程に進学してPh.D.を取得することと、自分の人生をアカデミアという沈みゆく泥舟に縛り付けることは、必ずしもイコールではないのです。

これから学位取得を目指そうとする若手に向けて

博士号がどのようにして人生を豊かにするかについては別の記事でじっくりと触れたいと思いますが、ここではそんな博士号を無理なく無駄なく取得し、有効に活用するために大事な考え方について紹介したいと思います。特にこれから大学院の博士課程に進学しようと考えている学生は以下の3点についてしっかりと考えておくと良いでしょう。

なんだかんだいって研究分野は大事

もしもあなたが一生を捧げても良いと思えるような研究対象が特にあるわけでもなく、学位をキャリアにおけるひとつの切り札として考えているのならば研究分野を適切に選ぶことは重要です。今なら人工知能バイオテクノロジーに対する求人が熱くなっています。とくにバイオテクノロジーの場合は臨床系、できれば医学部で研究することが、のちのちのキャリアビルディングでだいぶ役に立ちます。

そもそも論でいえば、イノベーションというのはどの分野で起こるのか分かりませんし、だからこそ基礎科学は役に立つ・立たないに関わらず幅広く研究されるべきなのです。ですので、これから重要になりそうな分野を選ぶなどというのはそもそも不可能に近く、そういう意味では研究者は自らの知的好奇心を満足させるような分野に愚直に突進すべきなのでしょう。

そのような理屈は分かってはいますが、研究にも流行り廃りはあり、その見極めは重要です。なんだかんだいって流行っているところには大勢の人が集まり、優秀で面白い人がたくさん集まるものです。将来のことを考えるのならば、話題の分野を学んでおくことに損はないはずです。

経済支援があり、なおかつ規定の年数で学位を取らせてくれる場所を探す

さきほどから述べているように、アカデミアの人気は急速に下がっています。これは売り手である学生の価値が相対的に上昇しているということを意味しており、したがって研究室選びは強気の姿勢で望むべきです。

具体的には、TAなどといった制度により経済的に学生を支援するような体制のある研究室を探しましょう。また、先輩たちが規定の年数で卒業できているかもしっかりと確認する必要があります。学位を取るのに6年も7年もかかっているような人がいるラボは無条件で避けるべきです。

残念がら学生を単なる無償の労働力と考えている研究室は、まだまだたくさんあります。そのようなラボは資本的合理主義のもと、とっとと自然淘汰させましょう。

転職エージェントを積極的に使う

学位取得後のキャリアは、ポスドクとしてアカデミアで丁稚奉公するだけが全てではありません。民間企業での研究や、非研究職へのキャリアチェンジも早期に意識するべきです。

その際に役に立つのは転職エージェントです。プロフェッショナルのサービスを無料で受けられるシステムは、アカデミアの価値観に染まっている身からすると画期的に映るはずです。

Ph.D.に対する産業界からのニーズはこのところ急速に高まっており、エージェント側としても博士号取得者を歓迎してくれることでしょう。私が転職活動をした7年前とは随分と世界も変わったものです。

⇒ 転職を考えているポスドクが知っておきたい転職エージェント3選とその活用法

まとめ

ノーベル賞受賞という明るい話題の影で、アカデミアの抱える問題が世間に伝わったことは良いことでした。しかし、逆に考えればこのくらいのインパクトのあることが起こらない限り、アカデミアの問題が公に議論される機会はないのです。

若い研究者のみなさまや博士課程に進学するかどうか悩んでいる学生の方は、是非ともこれをきっかけにキャリアのすべてがアカデミアにあるなどと考えず、広い世界のことを考えて行動していただければと思います。

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