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転職時にブラックな業界に迷い込まないために必要なビジネスモデルの理解とは

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私は以前、バイオ系の研究者としてアカデミアの研究機関に所属していたことがありました。といっても待遇は1年毎に更新される契約社員(= ポスドク)であり、いわゆる非正規雇用としての採用でした。研究環境は非常に厳しく、上司である教授からの待遇も決して良いものとはいえませんでした。今思い起こしてみると、ブラック企業ならぬ、ブラック研究室のような環境であったといえるかもしれません。

詳しくは ⇒ ポスドク転職物語

電通での新入社員自殺問題に単を発したブラック企業問題は、今や日本のあらゆる組織にはびこっている社会問題です。このような問題がクローズアップされるたびに、働き方の見直しや法令遵守が叫ばれていますが、そのような方策がどれ程有効なのかについてははっきりいって疑問です。

私は「アカデミア」と「監査」という、伝統的かつ古めかしい2つの業界に身をおいた経験があります。これらの業界はいずれも疲弊しており、ブラック的な働き方を余儀なくされました。そこで感じたこと、それはブラック企業に見られる問題が自助努力や働き方の工夫で解決できるようなものとは思えないということです。端的に言ってしまえば、企業のブラック化というのはその企業の属する業界のビジネスモデルが通用しなくなってきていることに原因があるのではないか。それが私の考えです。

このブログではバイオ系研究者、特にポスドクのキャリアについて考える中で、アカデミアからの転職こそが最適解であるという話しを何度もしてきています。その際、せっかくアカデミアというブラック業界から抜け出せたのに、またしても別のブラック業界に身を置いてしまうことはなんとしても避けたいところです。そこで今回は、ブラック業界に迷い込まないために、まずはその業界のビジネスモデルから理解してみようということを述べてみたいと思います。




ブラック企業を考える前にブラック業界について考えるべき

巷には、どこそこはブラック企業である、などといった噂が絶えませんし、実際にそのような企業のリストを見た人も多いかと思います。そういったリストをみると、ある特定の業界が上位に来ていることに気づかれるかもしれません。

実際のところ、ブラック企業と呼ばれる企業の所属している業界というのはかなり偏っています。それとは逆に、ブラック企業がほとんどないような業界というものもあります。はっきりいってしまえば、現在私が所属している外資系のバイオ試薬・機器メーカーでブラック企業と噂されるような企業は聞いたことがありません。

ただし人員整理という名の解雇リスクは、日系に比べれば格段に高いです。その場合でも業界自体の求人ニーズは高いため、転職は非常に容易です。

このようなことを考えてみますと、ブラック企業がどこかといった個別の会社情報よりも、そもそもその業界自体がブラックなのではないかといったことを考えるのが遥かに重要といえるでしょう。

それではなぜ特定の業界にブラック企業が集中するのか。そのための分析こそが、ビジネスモデルを理解することにほかならないのです。

時代遅れのビジネスモデルとブラック企業問題

ビジネスモデルを理解するということは、要するにその企業がどうやってお金を稼いでいるのかを考えるということです。

お金を稼ぐというのは常に大変なことです。なぜならば、全てのビジネスは競争であり、競争に勝ったもののみがお金を儲ける資格があるからです。

それではどうやって競争に勝つのか。もっとも効率的な方法は、他者が容易に真似出来ないようなことをすることです。そうすれば、そもそも競争に参加する人たちがいない、もしくは極端に少ないため、常にその勝負に勝てるのです。競争に勝つにはそもそも競争しないことである、とは今から2千年以上も前に生きた孫子の言葉の中にもあります。このように他人が入ってこれない状況を、経営戦略的には参入障壁が高い、などと言ったりしますね。

さて、参入障壁というバリアですが、その高さは時代とともに下がってきます。その理由ですが、ひとつにはテクノロジーが進歩することにより、誰でも簡単に技術や材料が手に入るようになることと、もうひとつは、より効率的な方法が発見されることで、そこにある参入障壁を迂回するような方法が新たに発見されるからです。

このような環境の変化にさらされた既存のビジネスは、急速に競争が激化します。差別化できる要因は単なる値下げか、あるいは超過勤務による人件費の削減くらいしか残されていません。その結果もたらされるのは血みどろの戦い、いわゆるレッドオーシャンです。こうしてその業界にいる古くからの企業は急速にブラック化していくのです。

このような消耗戦の中で無駄に疲労しないためにも、自分の目指している業界のビジネスモデルが時代遅れになっていないか、常に疑うことが重要なのです。

監査法人のビジネスモデルは終焉を迎えつつある

それではビジネスモデルが陳腐化する過程というのは、具体的にどういったものなのでしょうか。

電通での過労死問題の背景には、Googleなどの新興企業による新たな広告モデルに対し、代理店としての既存のビジネスモデルが時代遅れになっていったため、それを過重労働で補おうとする単純な思想があったのかもしれません。ただし、私は広告業界についてはまったくの素人ですのでこれは推測の域を出ません。

そこで、私が実際に働いていた監査法人について、ビジネスモデルという観点から私の感じたことを述べてみたいと思います。

そもそも監査法人の業務内容というのは一般の人にとっては分かりにくいかもしれません。簡単に説明すると、上場企業などが作成する財務関連の資料(これを財務諸表と呼びます)について、その内容が正しく偽りのないものであることを第三者の視点から保証するということになります。

では何故、監査法人は第三者の視点として客観的に財務諸表の内容を保証できるのでしょう。監査法人にしかできない特殊な技術やノウハウがあるからでしょうか?そんなことはありません。彼らがやっているのは、伝票をいくつかもってきて帳簿と見比べたり、会計システムが計算したデータをわざわざエクセルで再計算する程度のことです。

監査法人が監査業務をおこなえるのは、彼らがある種のお墨付きを与えられているからにほかなりません。つまり、普通の人が監査業務をやりたいと思っても誰でもできるわけではなく、極めて高い参入障壁があるのです。そしてその参入障壁こそ、公認会計士という国家資格にほかなりません。

要するに、監査業務というものは国家的な参入障壁に守られている規制産業である、これこそが監査法人を成立させているビジネスモデルの背景です。

こういった規制は多くの場合、合理的な理由を欠いています。すなわち、公認会計士であるならば企業の不正や合理的でないプロセスを発見できるはずだ、といった理屈に根拠は全くありません。実際のところ、監査法人の歴史は不正に対する敗北の歴史でもあります。あるときには企業の巨額損失をまったく見抜けず、またあるときには公認会計士が積極的に不正に関与までしています。このようなことが明るみになるたびにいくつもの監査法人が閉鎖に追い込まれましたが、似たような話は今でも定期的に出てきています。つまり、監査法人による保証業務というのはその程度の信頼性しか生み出していないのです。

これは監査される側の企業の方もよく分かっており、この作業にどれほどの意味があるのだろうかと疑問を抱きながらお付き合いしていることも少なくありません。

監査法人側もこういった時代の流れの中でなんとかして自らの価値を上げようとしており、その結果として監査手順は年々複雑化してきています。これはどういうことかといと、例えば今まではAという数値の根拠を証明するためにBという書類で確認していたところ、今度はBの書類自体の信ぴょう性をあげるため、Cという書類でBの内容を確認している。簡単に言えば、このようなことが現場では起きているのです。

こうした作業をするからといって監査報酬をより高く請求することはできません。要するに、いままで同じ値段のお金しか稼げないにも関わらず、作業量はどんどん増加していっているのです。こうして、現場レベルのスタッフは極めて長時間にわたって拘束されるようになっており、これこそがまさにブラック化への道筋にほかならないのです。

こうしてみると、監査法人というものは根拠のない規制こそが利益を生み出す源泉であったものが、それが時代とともにクライアント側から不満が出てくるようになると、今度は作業量自体を増加させることで自らの価値を高めようともがき始めており、その結果として現場レベルのスタッフの労働環境が悪化している、というのがビジネスモデルの変遷といえるかと思います。かつてのように監査法人で公認会計士として働くことがエリートの証だった時代は、終焉を迎えつつあるのかもしれません。

ブラック業界に迷い込まないために注意すべきこと

このように、ブラック化した業界というのはビジネスモデル自体が破綻していることが多いため、企業内の自助努力や法令遵守だけではどうにもならないことが多いように思われます。こうした業界には、そもそも近づかないことが肝要です。

それではブラック化した業界に迷い込まないために、どういったことに気をつければよいのでしょうか。私なりの考えをいくつか挙げてみたいと思います。

業界に存在する規制を理解しておく

ビジネスモデルの話の中で参入障壁が重要だということを述べましたが、一番強力な参入障壁は国家による規制です。このような規制が産業全体の成長にとって良いのか悪いかという議論はもちろんあるわけですが、自らのキャリアを考える上では避けては通れない話ですので、この点をしっかりと理解しておくことが重要です。

最近、WELQというサイトが不正確な健康情報を掲載しているといことが大問題となり、閉鎖に追い込まれるという事態が起こりました。これなどは運営元であるDeNAが医療業界に存在する参入障壁を無視して突入した結果、規制当局から目をつけられてしまったと見ることができます。

このように医療や診断に関する業界というのは薬機法などの規制が数多く存在しており、非常に参入障壁が高いことで知られています。つまり、こうした業界で経験を積むことは、他者に真似されにくいキャリアを築き上げるうえで有利です。そういった意味ではバイオ系の研究者などのスキルは、これからの時代において価値を増していくことになるでしょう。

逆になんらかの事情で規制が有効でなくなってきている場合は注意が必要です。必要以上にかさ上げされてしまった世間からの評価が、規制という下駄を脱いだときにどれほど低下してしまうのか、しっかりと認識しておく必要があります。

テクノロジーをしっかりと学ぶ

参入障壁が崩れるとき、そこには必ず革新的なテクノロジーの進歩があります。これをイノベーションと呼ぶことがあります。

ブラック化していく業界に迷い込まないためには、古い世界に攻め込んでいくイノベーション側の視点を持つことが有利です。そのためにも、その背後にあるテクノロジーをしっかりと学んでおくことが重要です。

最近で言えば人工知能(AI)やバイオテクノロジーが新たな技術として注目を浴びていますが、これらの技術は実は数十年前から役に立つといわれながら、実用化にこぎつけるまでには長時間がかかりました。過去にはそのことばの響きだけで多くの人が飛びつき、期待はずれの成果しか生み出さずに多額の損失を出すこともありました。

世の中にはビッグワードといって、内容が伴っていないにも関わらず期待感だけが先行するような言葉が定期的に生み出されます。その中から、イノベーションを生み出す真のテクノロジーを見つけ出すには、流行にとらわれないしっかりとした知識を身につける必要があります。これこそが、大学などの高等教育を受ける意義のひとつなのではないでしょうか。

まとめ

ブラック企業の問題というのは、業界自体のビジネスモデルが陳腐化することによって生み出される構造的な問題だといえるのではないでしょうか。

これから転職を考えている方には是非とも、その業界が持つ強みは何か、盤石なビジネスモデルがあるのか、などといった視点から考え直してみることをお勧めします。

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