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アカデミアの研究者が民間企業で年収800万円を稼ぐための戦略的転職法とは?

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年収

私はかつて研究者として働いていましたが、勤務先はいわゆる「ブラック研究室」というやつで、ハラスメントや研究不正が横行していました。

そんな悪魔のような研究室から抜け出して、民間企業への転職体験を物語風に描いたのが「研究室を脱出せよ!〜ポスドク転職物語〜」です。

この物語では、 若手研究者がブラック研究室を飛び出し、民間企業に転職するまでの様子をなるべく細かく描写するように心がけました。そうすることで、これから実際に転職をしようと考えいているポスドクや若手研究者の役に立てると考えたからです。

ただ、そんなポスドク転職物語の中でも1点だけ詳しく解説できなかったことがあります。

それは、お金に関する話題です。

研究者になりたての頃は、世の中にはお金では買えないかけがえのないものがあって、研究生活とはそういった大切なものを大事にしながら生きていける素晴らしい職業だと信じていました。ところがあまりにも劣悪な労働条件を目の当たりにして、そんなことはいっていられないと悟るようになりました。

その後、いくつかの民間企業を渡り移りながら働いていく中で、お金に対する見方というのは随分と変わってきました。お金と全く向き合わないで生活していくことは事実上不可能です。大事なのはどうやってお金の心配をせずに暮らしていくのか、そのための生活の基盤をどう作るのかといったことを考えることだということに気づいたのです。

今回は転職を考えている若手研究者に向けて、民間企業で働くことで得られる年収について説明していきたいと思います。具体的には、転職したポスドクは年収800万円を目標にしようというのが今回の記事の趣旨です。なぜ800万円なのか、そしてどうやってその金額を達成するのか、順を追って解説していきたいと思います。

ポスドクの給料の水準は?

民間企業の年収について考える前に、まずはアカデミアにおける研究者の給料事情について整理しておきましょう。

バイオ系ポスドクの収入については日本学術会議の2011年の調査が有名です。

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t135-1.pdf

この資料によると、ポスドクの約40%は400万円以下の年収であること、(所属機関の)健康保険に加入できない人が10%程度いることなどが明らかにされています。

ポスドクの給料事情についてはこちらの記事にも詳しく書かれています。

ポスドクのお給料|Pentaroの日記
http://d.hatena.ne.jp/Pentaro/20150720/1437412565

上の記事に書かれているようにポスドクといっても待遇の差は色々とあり、平均的な年収像というものを想定するのは適切でないかもしれません。ただ、いずれにしても世間一般の給与水準から比べればかなり低いことは間違いないでしょう。

ただここでより問題になるのは年収の多寡ではなく、その雇用形態にあります。よく言われているように、ポスドク問題の最大のポイントは若手研究者の多くが非正規労働者として雇用されているという点にあります。

現代の日本において非正規社員としてのキャリアを続けることは率直にいって非常に危険です。言葉は悪くなってしまいますが、正社員ポジションはある種の特権階級になっており、この特権階級に入れるかどうかが人生の安定に大きな影響を及ぼしていることは認めざるをえない事実です。

このような格差社会は日本のためにとって良くないことは百も承知ですし、格差解消のための手は打たれるべきだとは思います。ただ残念なことに、どのようにすることが正しいのか今の私には分かりません。それと同じように、非正規雇用が常態化してしまったアカデミアがどのようにポスドク問題を対処すべきかについても、私自身のアイディアはありません。

ただ私には、ワーキングプアの一歩手前にいるポスドクが、「博士号」という切り札をもって、沈みつつ泥舟から抜け出す方法を紹介することはできます。このブログではこれからもこの点だけを愚直に書いていこうと思っています。

転職後の年収イメージを持とう

転職を決意したポスドクがどのような行動をとったら良いかについては、転職エージェントの使い方の記事で解説したとおりです。

参考記事 ⇒ 転職を考えているポスドクが知っておきたい転職エージェント3選とその活用法

今回は転職後の年収イメージを持つことで、民間企業に転職するとはどういうことなのかより具体的にしていきたいと思います。

冒頭で述べたとおり、民間企業へ転職した場合のポスドクが目指すべき年収目標は800万円とすべきだというのが、今の私の考えです。

ここで年収について考える上で非常に重要な統計を見てみることにしましょう。

民間給与実態統計調査結果 平成27年分(国税庁)
https://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2015/pdf/001.pdf

国税庁が毎年実施している民間給与の実態調査によると、平成27年の平均給与は420万円、男女別では男性521万円、女性276万円となっています。また同調査によると、年収800万円以上の給与をもらっている人は全体の8.8%となっています。このことから、年収800万円というのは給与水準としてはかなり高いということが分かります。

800万円という数字の具体的な根拠については後ほど説明するとして、まずはなぜポスドクからのキャリアチェンジでこのような高い年収を目標とするのかについて説明したいと思います。

まず第一の理由ですが、ポスドクとしての生活に苦労されている方たちに向けて、民間企業への転職というルートがあること、それもある程度の高水準の年収が期待されることを知ってもらいたいという願いがあります。私の考えているキャリアパスというのは、戦略コンサルタントになるなどといった難易度の高いものではなく、博士号をもっていれば誰でもチャンスがあるようなルートになるはずです。そして、こうしたある種の「逃げ道」が用意されていることが、結果的には研究活動を続けるための安定剤となることを期待しています。

もう一つの理由は、これからプロの研究者になろうと考えている若い人たちへのメッセージです。ポスドクにまでなった方であればご存知の通り、博士号取得のためのコストというのは本当に馬鹿になりません。同年代の人たちが給料をもらっているとき、大学院生は授業料を支払わなければなりませんし、奨学金をもらっている場合は借金額も増えていきます。ここまでして取得した博士号が、将来的に収入という面で全く役に立たなかったとして、一体誰が博士課程にまで進学したいと考えるようになるでしょうか?さすがの私も博士課程に進学する人材がいなくなってしまうことは世の中にとっては良くないだろうと思います。そんなことが起こらないように、博士号というのは金銭的な意味においても十分に投資に値する資格であるということを、しっかりと伝えていきたいのです。

ベンチマークとして製薬会社は適切か

さて年収の話に戻りましょう。サラリーマンの年収というのは相対的なものであって、その額が多いのか少ないのかというのは比較対象とするものがあって初めて議論することができます。例えば非正規労働者からすれば、正社員の年収500万円というのは非常に高く感じるものでしょうし、逆に上場企業の課長職の人にしてみれば年収1000万円というのはやや物足りなく感じるかもしれません。

そこでポスドクが民間企業に転職するとして、まずまっさきに思いつくであろう製薬会社の研究職をベンチマークとして、ポスドクの目指すべき年収について考えてみたいと思います。

ひとことで製薬会社の年収といっても、企業により水準は異なるでしょうし、職種、年齢、役職によってもかなり大きな差があるでしょう。一般的な上場企業における博士号取得者の研究職の年収に限った話で言えば、20代後半で年収700万円台、30代で800万円〜1000万円くらいのイメージでしょうか。企業の規模によってはこれよりも全体的に100万円くらい下がるかもしれません。ただ、どちらにしてもサラリーマン全体の年収水準からすれば明らかに高水準であるといえます。

以上から博士号取得者が民間企業に転職をした場合に得られる収入として、年収800万円というのは妥当な線ではないかとまずは考えてみましょう。

それではポスドクは転職先として製薬企業の研究職を選ぶべきなのか、というと全くそうではないことに注意が必要です。というか、ポスドクが製薬企業の研究職に転職してこのような年収を得ることはまず不可能と考えておくべきでしょう。

このことを理解するために、先ほどの民間給与調査をもう一度良く眺めてみましょう。すると、あることに気づかされるはずです。まず、事業規模と年収の関係についていえば、以下のようになっています。

資本金 年収
2000万円以下 359万円
2000〜5000万円 389万円
5000万円〜1億円 401万円
1億円〜10億円 460万円
10億円以上 577万円

このように資本金と年収にはきれいな相関関係が認められます。同様の傾向は従業員数の増加によっても見られます。このことから、大きな会社であればあるだけ、年収も高くなるというシンプルな結論が導き出せます。

次に勤続年数の長さと年収の関係について見てみましょう。詳しい数字は先ほどの統計資料を見ていただくとして、大まかに言えば入社して5年未満の平均年収が299万円であったのものが、勤続年数が5年延びるごとに70万円程度上昇し、勤続35年で699万円になります。ここでも勤続年数と年収はきれいな比例関係にあります。

以上を整理すると、年収というのは企業の大きさ勤続年数によって大部分は説明できるということになります。つまり年収を上げたければ新卒入社時になるべく大きな会社を選び、そこでなるべく長い期間働くというのが最も合理的な手段となるのです。これこそまさに日本型の「新卒一括採用」「年功序列」「終身雇用」の雇用形態と言えるでしょう。そして製薬企業というのは、実はこのような日本型の雇用をゴリゴリに続けている数少ない業界なのです。

製薬企業への就職というのは、今では珍しくなってきた日本型の雇用システムに乗ることを意味しています。そしてこのシステムは年収という点でいえば非常に恵まれたパフォーマンスを出す一方で、新卒採用以外からのルートは事実上閉ざされています。このことは研究職でも全く同じことがいえます。すなわち、博士号を取得して大学院を卒業するタイミングが入社確率のもっとも高い瞬間であり、就業経験が既にあるポスドクを雇う可能性は極めて低いと考えるのが正しいのです。

製薬企業の年収はポスドクの目指すべき年収のベンチマークとしたいところですが、転職先候補としては不適格です。それでは一体ポスドクはどうやって年収800万円を目指すべきなのでしょうか。

2段階ロケット方式によるポスドクの転職戦略

結論から先にいうと、ポスドクから民間企業に転職していきなり年収800万円を目指すのは不可能です。また年功序列システムからも外れてしまいますので、勤続年数を稼ぐことだけではこの年収に届きません。それではどうするかというと、転職を成功させた後にもう一度アクションを起こすのです。これが私の提唱する2段階ロケット方式のキャリアビルディングです。以下、各ステップを詳しく説明しましょう。

第一ロケットではまずは正社員を目指す

ポスドクからの民間企業への転職でまず目標とすべきは、正社員の地位です。日本の雇用システムというのは非常に歪んでおり、一度正社員の地位を獲得さえすれば、企業は従業員を解雇することが極めて困難です。この特権ともいえる階級を目指すこと、これがポスドクの転職にとって極めて重要です。

職種については色々な可能性があると思いますが、以前の記事で紹介したフィールドアプリケーション・スペシャリスト(FAS)やメディカルリエゾンのほかに、バイオベンチャーでの研究職なども候補となるでしょう。年収についてはこだわり過ぎてもいけませんが、500万円以上というのが一つの目安になるはずです。専門的な知識をもっているが民間企業での就業経験がないポスドクの市場価値としては、まずはこの辺りが妥当なところになります。

ポスドクからの転職で派遣登録社員として研究をするという手段も考えられなくはありませんが、個人的にはお勧めできません。何度も繰り返しますが、現在の日本の雇用環境においては非正規社員のキャリア期間はなるべく短くすることが肝要です。それでなくともポスドク期間中に非正規としてのキャリアを積み上げてしまっているのですから、あえて同じ非正規のまま民間に移るメリットはあまり感じられません。

第一ロケットで正社員のポジションを手に入れたら、少なくとも同じ場所で3年間は働きましょう。3年経てば、もはやあなたのことを社会人経験のないアカデミア研究者として見る人はいなくなります。正社員である期間が長くなればそれだけ、転職マーケットという市場での価値は上がるのです。

第二ロケットで年収800万円を目指す

さて無事に民間企業への転職することができたとしても、3年程度では年収はほとんど変わらないと思います。特に外資系企業の場合は年功序列システムはまったくないどころか、会社の業績によっては年収が下がる場合もあるかもしれません。そこで考えるのが第二ロケットによる年収アップです。

第二ロケットで年収をあげる方法は2つあります。一つはマネージャーなどの役職につくこと。そしてもう一つは、2回目の転職をすることです。

マネージャー職につければ、年収は一気に上がります。ポスドクからの転職時の年収にもよるでしょうが、マネージャー昇格で700万円以上の年収になるのではないでしょうか。なによりも3年程度の勤務でマネージャーに昇格できるというのは、あなたの才能が認められたことを意味しますし、あなた自身もその職種に向いているからこそにほかなりません。こうしたチャンスが来たら、是非とも活かしましょう。ただしマネージャーなどの役職につけるかどうかは本人の努力というよりは運や環境の影響の方が大きいです。はっきりいって3年くらい働いた程度では役職どころかデスクの位置も変わらないでしょうし、年収もほとんど変わらないはずです。

そこで考えるのが2回目の転職です。この場合は同業他社での同職種を狙うのが王道ですが、バイオベンチャーでの研究職からFASへのジョブチェンジなどは十分可能です。民間企業で3年間働いたという経験が、転職時に大きな威力を発揮することを実感する瞬間が訪れるでしょう。

私の業界(科学機器メーカー)でいうと、転職求人のオファーは年収600〜800万円というものが結構多く出ています。こうした求人の中から条件の良いものをじっくり選びとりましょう。ポスドクからの転職のときと異なり、もはや正社員としての安定した地位がありますので急ぐ必要は全くありません。自分の価値をなるべく高く売れる場所を探し、700万円以上のオファーを受けるまで粘るのが大事です。この辺りの水準で転職できれば、インセンティブボーナスや基本給アップなどで、年収800万円近くになることは十分可能です。

大事なのは年収を上げ続けることではない

以上が私の考える転職戦略です。ポスドクの転職でここまで具体的な年収金額に触れている人はあまりいないと思いますので、色々な意味で刺激を受けた方も多いのではないでしょうか。

一つここで断っておくと、年収の目標を持つことは大事ではありますが、私自身はそれを上げ続けること自体にはあまり意味を感じません。巷でよく言われるような年収1,000万円というサラリーマンにとっての一つの目標も、労働条件と累進課税による税率のバランスを考えるとあまり効率的な働き方とも思えません。年収の増加と幸福度の相関を調べた研究でも、年収800万円以上では幸福度はそれほど上昇しなくなってくるといわれています。

一方で年収が700万円を超えたあたりから明らかに変化することがあります。それは月々のキャッシュフローです。年収500万円台では毎月の収支はとんとんで、ボーナス分が貯蓄やレジャー費用にあてられるというケースが多いと思います。ところが年収700万円くらいになると毎月の手取り収入が明らかに支出よりも多くなり、通帳の預金残高が着実に毎月増加していくようになります。こうして得られた金額こそが将来の生活の基盤となり、今回の文章の冒頭にお話した「お金に縛られな生き方」に繋がるのです。

まとめ

今回はポスドクが民間企業に転職した場合のお金の事情について解説しました。

現在転職活動中の人にとっては、2回目の転職を視野に入れつつ最初の企業を選ぶというのは気が引けるかもしれません。しかし会社に気を使う必要は全くありません。大事なのは会社と、そして資本主義社会と対等に向き合い、時には制度のゆがみを利用して、そうやって生活の基盤づくりを始めることなのです。それが達成されたとき、あらためて当初の人生の目的であった知的な営みを始めることは決して夢のような話ではないと、私は思っています。

実際の転職活動に興味が湧いてきたら、次にすることは転職エージェント探しです。
参考記事 ⇒ 転職を考えているポスドクが知っておきたい転職エージェント3選とその活用法

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