ポスドク転職物語

転職活動の本質は自分の人生を見つめ直すこと

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研究室を脱出せよ!【17】ポスドクの、人生の設計図。

研究室を脱出せよ!【目次】

そんなこんなで面接対策をしているうちに、書類の結果が返ってきた。書類通過したのは、6社中4社。半分といっていた青木さんの予想を少しだけ上回る結果となった。不合格となった2社は事業経験がないことを理由に断られたそうだ。逆に言うと、残りの4社は経験に関しては不問だということになる。

「兼道さんが作られた書類が良く書けていたからだと思いますよ。」

そういって青木さんは僕を勇気づけてくれた。

ところが、その後に続く筆記試験では思いのほか苦戦を強いられた。もともと理系といっても生物を専門に勉強してきていたので、数学だかパズルだか分からない判断推理問題は苦手だったし、英語のテストも原著論文を読むのとは違った難しさがあり、思うように力を発揮できなかった。結局、筆記試験を通ったのは2社だけだった。

いよいよ始まる面接を前に、青木さんはこう言った。

「いずれにせよ2社残ったということをポジティブに考えていきましょう。さあ、ここからがいよいよ本番ですよ。引き続き、ケースの練習をしっかりしていきましょう。私から送らせていただく問題を解くだけでなく、日頃見るニュースや、街中の様子など、目に入ってきたもの全てに対して、自分だったらどう考えるか、改善できることは何か、自分なりの考えを整理する時間を作ってみてください。」

僕は青木さんのアドバイス通りに生活することにした。ビジネス系の週刊誌の定期購読もしたし、アニメ専門だと思っていた系列のテレビ局のビジネスニュースも毎日見るようになった。そこで思ったのが、ビジネスに関わる人達の独創性の高さだった。競合他社と同じことをしていても競争には勝てない。いかにして誰も真似できなかった方法を考え出すか。その思いにかける強さは、アカデミアで研究をしている人間とまったく変わらなかった。いや、むしろ市場の原理というメカニズムに常にさらされいている分、妥協のない真剣さはビジネスのほうがはるかに高いのかもしれない。

元戦略コンサルが書いたというビジネス小説も読んでみた。業績が悪化した企業を親会社から出向してきたミドル社員が立て直すという物語だ。話自体も面白かったが、リーダーによっていかに組織のあり方が変わるのかという人間関係の部分に熱中した。そして、研究室という一組織を運営するにあたって、いかなるリーダーがふさわしいのかについて思いを馳せた。田所教授はサイエンティストとしては優秀なのかもしれないが、果たして優れたリーダーといえるだろうか。それとも、研究室運営にリーダーシップは必要ないのだろか。

そんなことを考えているうちに、いつしか自分はなぜ研究者になろうとしたのか、そのいきさつについて考え込んでいた。小さい時から昆虫が大好きだったとか、父親が研究者だったとか、そういったエピソードは全くなかった。それでも、未知のことに対する憧れだけは強かったし、新しいアイディアや方法を工夫して考えることは好きだった。だから、企業のサラリーマンとして勤め、言われたことだけこなす歯車のような仕事は自分には絶対無理だと思っていた。しかしどうだろう。歯車になってしまったのは今の自分の方なのではないか。今の研究室で、やりたいことを目いっぱいやっているといえる自信はあるだろうか。そして、企業で働くということは社会の歯車になるということなのだろうか。

とりとめもないといえばとりとめもないが、それでも自分の人生を初めて真剣に見つめ直す時間を持てた気がした。これが転職活動ということの本質なのかもしれない。そして、いつしか黒岩さんがいっていたキャリアビルディングという言葉を思い出して、今この時が人生の設計図を書いている瞬間なのかもしれないと思った。

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