セゾン投信などの積み立て型の投資信託の人気が高まっています。また、近年話題の確定拠出年金でも毎月一定額を積み立てていきます。
いずれも長期に渡って積み立てることでリスクが分散され、安定した資産形成に適しているなどといわれています。毎日のように売買を繰り返すデイトレードや、FXのようなギャンブル性の高い投資と異なり、生活のための資産を生み出す投資にはリスク管理は欠かせません。
長期投資が資産形成にとって重要であることは間違いありませんが、預貯金などの元本保証の金融商品と異なり、株式投資にはある程度のリスクが含まれます。私たちは投資信託などに投資する際、どの程度のリスクと向き合うべきなのでしょうか。
今回、投資信託について調べる中で、複利とリスクの関係に興味が出ていろいろ調べたところ大変有意義な記事にめぐりあいました。ここではそれらの記事を紹介しつつ、長期投資にまつわるよくある誤解について解説してみようと思います。
長期投資にまつわる誤解
長期投資のメリットを強調する際によく出てくるのが複利の話です。
例えば、株式に投資して年間5%の収益(=リターン)が期待できるケースを考えてみましょう。
100万円預けたとして、1年後にはこの資産が105万円になる計算になります。そして、その次の年には105万円分を投資に回したとき、5%のリターンでは110.25万円になります(105万円x1.05)。
この理屈で10年間5%のリターンを維持した場合、最終的には資産は160万円近くにまでなることになります。このようにリターンが雪だるま式になるのが複利と呼ばれる考え方です。
複利計算をすると年間のリターンがそれほど大きくなかったとしても、それを長年続ければ大きな資産を作ることができます。そしてこれこそが、長期投資をする最大のメリットであるというのです。
しかし、この考え方には重要な視点が抜けています。このことを理解するために、リスクという考え方を整理しておきましょう。
リスクとリターンの関係を整理しよう
投資の世界ではどのくらいの収益が得られるかというリターンと同じくらい重要な指標があります。それがリスクです。
リスクというとなんとなくあいまいな言葉に聞こえるるかもしれませんが、投資で言うリスクには非常にはっきりとした定義があります。リスクとは、リターンのバラ付きを標準偏差で表したものなのです。この記事を読んでいるのが理系の方であれば、この説明でだいたいの想像がついたと思います。
例えば先程5%のリターンが期待される株式投資というものを考えましたが、これは毎年必ずこのリターンが出ることを意味したものではありません。ある年は20%くらいリターンがでるかもしれないし、逆にある年はリターンがマイナスになる、いわゆる元本割れが起こることもありうるのです。
そうした毎年のリターンを平均したものが5%という期待リターンであり、それらのばらつきを標準偏差であらわしたものがリスクになるのです。
株式投資のリスクはだいたい20%程度といわれていますので、毎年のリターンは5%±20%くらいで激しく上下することになるのです。
リスク資産を複利で運用するとは?
さてここで一つの疑問が起こります。このようにばらつきを持った資産、つまりリスク資産を長期に渡って保有した場合、いったい何が起こるのでしょうか。
例えば5%の10年複利では100万円が160万円になるというのが最初の説明でしたが、その可能性というのは本当はどのくらいあるのでしょうか。逆に長期投資の結果として100万円を割ってしまう可能性というのはないのでしょうか?
この答えを探していたところ、まさに同じ疑問をもった方がいました。それが「ファンドの海」の管理人のイーノ・ジュンイチさんです。
・緊急調査:株式投資に複利効果はあるのか?
・早くも帰ってきた! 連載:リスク資産の複利確率(1)~ 連載の目的と前提
この記事の結論として、リスク資産を長期にわたって保有すれば、その結果の不確かさは増大していく、つまりリスクはどんどん大きくなってしまうということが示されています。
こちらの記事をもう少し数学的に細かく解説したのが、森村ヒロさんによるこちらの記事です。こちらも非常に参考になります。
・リスクはリターンの敵 – リスクとリターンと複利の関係
長期間の運用はリスクを大きくする
さて、長期投資によりリスクが増大していくとは具体的にどういうことなのでしょうか?
このことを分かりやすく示すためのツールが、先のファンドの海のサイトて提供されています(これは本当に素晴らしいツールです!)。こちらを使って具体例を見てみることにしましょう。
・長期投資予想/アセットアロケーション分析
5%±20%の資産について、ブログにあるツールを使ってシミュレーションしたのが下の図になります。
期待リターン:5.00% リスク:20.00%
元本:100万円 総投資額:0万円 期間:10年
(期待値:162.9 標準偏差:106.6 中央値:136.3 最頻値:95.4)
このグラフによると、期待どおり160万を超えてくる可能性は38.3%しかなく、それどころか元本割れの確率さえ30.2%もあるのです。つまりよくいわれているような長期投資による複利効果というのはうまくいった場合の話であって、うまくいかないケースも十分ありうることがこの図からわかります。
結局のところ、元本割れするかもしれないリスク資産の場合は、どんなに長期的に保有していたとしても元本割れのリスクはなくならないのです。それどころか、不確実性という意味でのリスクは運用が長期になればなるほど大きくなります。遠い将来のことになればなるほど確かなことは言えなくなっていく、というふうに考えればこれは当たり前のことなのかもしれませんね。
確定拠出年金の長期投資の効果もひと目で分かる
長期的な運用ということでは、近年注目されている確定拠出年金もこれに当てはまります。拠出金をリスク資産で運用した場合、どのようになるでしょうか。
下図は毎月2万3千円の拠出金を20年間にわたって、5%±20%のリスク資産に投資した場合のシミュレーション結果です。
期待リターン:5.00% リスク:20.00%
元本:0万円 総投資額:2.3万円 期間:20年
(期待値:933.4 標準偏差:565.9 中央値:798.1 最頻値:583.5)
これによると、期待通り5%複利で運用できれば552万円の元本が933万円にまで膨れ上がりますが、その確率は39%とそれほど高くありません。一方で、元本を割り込んでしまう確率も25%程度は残ってしまうのです。
確定拠出年金の宣伝で、単純に複利5%で資産が増え続けるような印象を与える宣伝文句を見かけることがありますが、リスク資産の場合は元本割れすることもありうるのだということを改めて胸に刻んで置いたほうが良さそうです。
まとめ
資産を増やすには長期投資が重要なことは間違いありません。複利効果を受けることができるからです。しかし複利の力が有効になるようなリターンを望む以上は、そこに付随するリスク、つまり将来の不確かさを受け入れるしかありません。それはは元本割れすることも覚悟する必要があるということなのです。
投資というものはどれくらい稼げるかではなく、どの程度のリスクなら許容できるかが重要であるといわれることがあります。そのためには、長期投資によってリスクがどのように増大するかを前もって認識しておくことが重要です。
複利とリスクにまつわる関係を理解するために、今回紹介した記事を是非とも役立てていただければと思います。