お金 会計入門

民間企業に転職しようと考えている全てのポスドクに送る会計超入門

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会計

このブログでは、ポスドクと呼ばれる非正規雇用の研究者の雇用に関する問題、いわゆるポスドク問題について考えるとともに、こうしたポスドクが民間企業の正社員職を得るためにはどうしたら良いかといったことを書いております。

今回は、民間企業で働くことになった、あるいは働こうと考えてるポスドクに向けて、企業におけるお金の考え方、すなわち「会計」について、理系研究者がどのように学んでいったら良いかについて考えてみたいと思います。

なぜ会計を知ることが重要なのか?

企業というのはアカデミアと異なり営利を追求することが求められる組織です。そこでは当然のことですがお金に対する考え方というものが非常に重要になりまし、お金に対する知識や経験が豊富な人材は企業内でも重要な役割を担うことが多くなってきます。

これに対して、営利とは無縁のアカデミアの世界で生きてきたポスドクたちというのは、売上であったり予算であったりといった会計数値には疎い人たちと思われることがあるでしょうし、なによりも本人たち自身が自分たちには関係のない世界だと敬遠してしまいがちです。

そんな私自身もポスドクから民間企業へ転職したばかりの頃は、売上などの数字データを華麗に操る人たちを見ては自分に欠けているスキルを見せつけられたような気がして、なんとなく負い目のようなものを感じたものです。

そんな中、米国公認会計士(USCPA)という会計の資格を取得し、ついには監査法人という会計の専門家集団のような会社に転職した経緯についてはこれまでに触れた通りです(参考記事 ⇒ バイオ系ポスドクがゴリゴリの文系職に転職して失敗した話)。

そんな私が会計の勉強を通じて感じたこと、それは

博士のような専門を極めた人たちにとっては会計はわざわざ大量の時間を費やしてまで勉強するようなものではない

といったことです。

理系研究者といえども民間企業に転職した場合、企業の経営状態を知るために必要最低限の会計知識は身につけておくことは重要です。ただし、そのために必要な会計の知識はこれからここに書く内容を読めば十分です。

ポスドクの皆様におかれましては、是非とも私がたどった無駄な道に迷い込まないことを願っております。

会計とは要するに利益額をはっきりさせるための作業

さて会計とはなにかというのは色々と説明の仕方があるのだと思いますが、私の感覚では要するに、

利益額」というあいまいな指標を算出し、記録するためのルール

くらいかなと思っています。

先に断っておきますと、ここに書いた会計の定義のようなものは完全に私の独自の見解ですので、専門家からしてみるとけしからん、ということがあるかもしれません。もっというと、これからここで披露する会計に関する考え方というのは、普通の会計の本には書いてありません。それでも、もしも私がこういう説明を3年前に受けていたら、その後の会計に関する態度というのも随分変わったのではないかと思っています。とくに理系研究者にとっては市販の簿記入門の本などよりも、これからする説明の方がよっぽどしっくりくるのではないでしょうか。

さて話は戻りまして、利益という指標が会社にとって重要だというのは直感的には当たり前のように思われますが、なぜ重要なのかという点を改めて考えてみることにしましょう。ポイントは、誰にとって重要な数字か、ということです。

まずは株主の視点で考えます。株主というのはお金を出して会社に出資している人たちですね。この人たちが出資する目的というのは、会社の儲けからいくばくかの分け前をもらうためです。この分け前のことを配当金といいます。そして配当金というのは利益から出されるので、株主にとって会社の利益額というのは自分たちがどれくらい儲けられるのかの重要な指標になるのです。これが利益が重要な第1の理由です。

もう一つの視点、それは実はです。我々は個人として消費税や所得税といった税金を払っていますが、会社も法人として税金を払う必要があります。これを法人税といいます。この法人税というのは企業が生み出した利益額に対して何%という税率をかけることにより算出されます。したがって徴税する側にとっても利益額をきちんと把握するというのは非常に重要なのですね。これが第2の理由です。

上場企業の場合は株が市場で取引されるため、利益が多ければ株価は上がりますし、会社の経営陣は株価が自分たちの成績表みたいなものですから、株価を上げるために必死で利益を出そうとします。一方で非上場企業の場合、株取引は公開市場では起こりませんので株価を気にする必要はありません。それよりも、利益が大きくなればなるだけ引かれる税金が高くなるだけですので、この場合は利益が小さい方が得だという考え方もできるわけです。このように会社のおかれた環境によって利益を上げたいのか下げたいのかのインセンティブが全く異なることに注意が必要です。

さて会計監査では世の中を見渡す際にある一つのの重要な仮定を置きます。それは、人は環境さえ整えば必ず不正を働く存在であるという、いわゆる性悪説の考え方です。今述べたように、企業環境によって利益額が大きい方がいいのか小さい方がいいのかは異なってきますが、いずれにしても経営者や従業員というのは利益額を不正に操作しようとする存在であると考えるのです。

たとえば非上場企業では利益が大きければそれだけ税金を多額に納めなくてはならないので、利益額を不正に小さくしようとするかもしれません。これは脱税とよばれる行為になります。

一方で上場企業は株価を釣り上げるために不正に利益額を水増しする可能性があります。このようなことを会計の世界では粉飾と呼んでいます。

脱税も粉飾も利益を不正に操作しようとする行為ですが、その意図する結果と、それを起こさせようとするインセンティブが全く逆であるというところが、なかなか面白いところだと思います。

いずれにせよ、性悪説の考え方では利益というのは正しく報告されない可能性が非常に高いため、このようなことが起こらないようにするためにしっかりとしたルールを作りましょうというのが、会計に課された一番の使命なのです。

どうやって利益を計算するのか

さて利益を正しく算出することが重要だということはおわかりいただけたと思いますが、それでは利益とはそもそもどうやって計算するのでしょうか。これは以下のような式で簡単に説明されます。

利益 = 収益 ー 費用

これは想像通り内容で良いと思います。要は、入ってきた分から出ていった分を引いた残りの部分を利益と呼びましょうといっているに過ぎません。

この式だけを見ると、利益というのは操作のしようもない確固とした値のように思われます。例えば50円のリンゴを100円で売るという取引を考えてみましょう。費用はリンゴの仕入れ値の50円になり、収益はリンゴが売れた時にお客さんからもらった100円になります。したがって利益は100円と50円の差額の50円ということになります。

ところが会計の世界ではリンゴを売った利益というのは人々の考えた方やルールの作り方で簡単に変化してしまうような、極めてあいまいな数値なのです。この点こそが、理系の人間にとって会計が不可解かつ理解しにくい最大のポイントなのです。

会計の世界の理解を困難にしている一番の原因、それは、利益というものが現金に連動していないという点だと思われます。

さきほどのリンゴの例でいえば、リンゴを仕入れて50円支払ったとき、この瞬間には費用は発生していないと考えます。自分のもっている財布からは明らかに現金がなくなっているにも関わらずです。それではこの50円は一体いつ費用になるのかというと、このリンゴが売れた瞬間に費用になると考えるのです。

なぜこのように考えるかについては色々と説明の仕方もあるのでしょうが、そんなものをいちいち真に受ける必要はありません。一応、費用収益対応の原則などという名前はついていますが、要は人間がそういうルールを作ったから、というのが答えであって、なぜそのようなルールがあるかについては真剣に議論しても意味がありません。リンゴを仕入れた時ではなくお客さんに売れた時に費用とするというルールの合理的な理論であったり、そうするしないことによる不利益の具体的な算出方法などを見たことは残念ながらありません(私の不勉強でしたらすみません)。

会計の勉強とは要するにルールを覚える作業

いまリンゴの例では費用がいつ発生するかについて考えたわけですが、同様にして収益がいつ発生するのかについても検討する必要があります。

もしも八百屋さんのような小売店でリンゴを売っているのだとすれば、売上はお客さんがレジに来てお金を支払った瞬間に上がると考えて良さそうです。しかし、もしこれがネット通販など場合はどうなるのでしょうか。お客さんがサイト上で注文ボタンを押した瞬間なのでしょうか。それとも商品がお客さんの手元についたときでしょうか。

ネット通販に限らず、多くの企業は商品在庫を倉庫に置いておき、注文が入ると運送会社に手配して倉庫からお客さんの元に運んでもらうようにします。この倉庫から商品が出た瞬間に売上を上げるという考え方があり、これを出荷基準と呼んでいます。多くの企業では売上のタイミングは出荷基準となっているようです。

売上をいつ上げるかの基準は業界や商慣習などによっても異なるようですが、いずれにしても重要なのは誰かが決めたルールをしっかりと守ることであり、なぜその基準を使うのかといった理屈を突き詰めている人というのは、一部の理論家を除いてあまりいないように思います。実務に携わる人というのはいかにミスをしないで仕事をするかが第一に重要ですので、なぜそうなのかと考える習慣自体がそもそもないように思います。

このようにして考えると、企業にとってもっとも重要な会計数値である利益というのは、収益と費用どちらもが人間の勝手に決めたルールで記録されているため、本来的に極めてあいまいで不確かな情報でしかないのです。

例えば売上をでっち上げたかったら、決算日の直前にとりあえず倉庫から荷物を出荷さえしておけば架空の売上を上げることも理屈上は可能です。そして売上が確定したら荷物を倉庫に戻しておけば、現金も倉庫内の商品もなにも変化していないのに、利益だけは上がるという事態が発生するのです。このケースは利益額を水増ししようとしているので粉飾をしていることになりますね。

この例は不正取引の中でももっとも単純なものであり、さすがにすぐにばれるとは思いますが、世の中を賑わせている粉飾決算の中身も結局は似たようなものです。要は、人間の作った勝手なルールを逆手にとって、利益額という企業にとってもっとも重要な指標を紙面上だけで作り上げることが原理的に可能なのです。

少し話がわき道にそれましたが、会計というのはその多くが人間の作った勝手なルールで成り立っているといるということを理解することが大事です。そして会計を勉強するということは、この複雑で一貫性のないルールをとにかくひたすら覚えるということにほかならないのです。

複式簿記について

さて会計の勉強ではルールをひたすら覚えることが重要と書きましたが、なかでも会計情報の記録方法というものはやたらと手が込んでいます。この記録の仕方は「複式簿記」と呼ばれています。

会計の知識というと複式簿記についても説明しないわけにはいきませんし、実際のところ会計を学びたかったら複式簿記を一通り勉強するのが一番手っ取り早いでしょう。そこで、ここでも私の自己流で複式簿記を説明したいと思います。

といっても、その中身自体は大したことはありません。要は取引ごとに情報を複数書いておきましょうということを大げさにやっているだけです。

例えば現金を例にして考えてみましょう。いま自分の手元に100円が入って来たとします。このとき、お小遣い帳(家計簿でもいいのですが)では+100円と書きますよね。ただしこれだけではなんで100円入って来たのか分からないので、メモ欄にお客さんからの商品代金、とか銀行から借りた、のように現金が増加した理由を書いておくと思います。

複式簿記では、現金100円と書かれた欄の右側にも左側の数字と同じ数字を入れておき、それと同時に現金が増えた理由として「売上」とか「借入金」と添えておくのです。

現金 100円    売上 100円

このように左側と右側に同一の数字を並べて書く形式を、複式簿記と呼ぶのです。

複式簿記の説明はこれで十分なのですが、どうも会計の本などには「複式簿記は人類が生み出した最高の発明品」などといってやたらと複式簿記を礼賛している文が目立つように思います。私はなぜ複式簿記という記録方法が素晴らしいのか、あるいはなぜほかの記録形式ではだめなのか、色々と考え、また実際に公認会計士の人に尋ねたことがあるのですが、結局のところその理由はよく分かりませんでした。

複式簿記が優れている点をあえて挙げるとするならば、左右の数字が常に一致する(これをバランスする、といいます)ということくらいでしょうか。企業の取引は非常に多くなり、時には数億件に達することもあります。そんなときでも複式簿記を使えば左と右の数値の合計額は常に一致しますので、もし計算間違いしていてもすぐに気がつくという道理です。確かに計算をそろばんでやっていた時代ならそういったメリットもあるでしょうが、今は(というか半世紀も前から)計算は機械がやっている訳ですから、計算間違いを発見できるというメリットがどの程度あるのか怪しいものです。

会計の勉強は各種ルールを覚えることだと述べましたが、実は複式簿記という記録方法自体がルールのかたまりであって、結局のところ会計は1から10までルールを覚えることに終始するのです。

とはいっても複式簿記のルールは視覚的に考えると理解しやすいですし、原価計算などは算数の問題みたいなものですので、理系研究者にとってとっつきやすいのではないかと思います。興味のある方は日商簿記の2級を目指してみると良いでしょう。ただし1級になるとルールの暗記がとたんに激しくなりますので、そこまでやる必要(とメリット)はないと思います。

まとめ

今回は会計とはなんなのかということを、超初心者を対象として私なりの方法で解説してみました。

本文中でも書いた通り、会計の勉強とは結局のところ人間が勝手に作ったルールをただただ暗記する作業であり、すでに何かの専門家であるポスドクが人生を賭して学ぶようなものではないと思います。とはいっても会社で働く以上は必要最低限の会計ルールを知っておくのはなにかと便利であることは間違いありません。その点でいえば、日商簿記2級の取得というのは一つの目安にはなるかと思います。

日商簿記2級程度の知識をつけたら、私のしたようにその先の勉強をしようなどといった無駄なことはせず、それよりはなぜこのようにして数値が出てくるのだろうかといったことを考えた方が理系研究者の能力がよっぽど発揮されるのではないかと思います。

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