研究

インベスターZを読んでバイオの研究者になろうと思った人に知っておいてほしい話

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みなさんはインベスターZというマンガを読んだことはありますか?

学年トップで入学した中学1年生の財前が学校で目にしたもの、それは総資産3000億円を運用する謎の集団「投資部」。

投資の天才の血筋を引く主人公が知ることとなる、投資部と学園の知られざる過去とは!?

という感じで、メチャクチャな設定ながらもグイグイと引き込まれる、今おすすめのマンガです。投資や企業経営に興味のある人なら、きっと読みごたえがあると思います。

そんなインベスターZですが、投資部の主人公たちが注目している業界のひとつにバイオテクノロジー産業が挙げられています。

なんなら、将来はバイオの研究者になりたい、とまで言う子が出てくるではありませんか。

私はバイオの研究者として働いていた経験があるので、このあたりの事情は人よりはちょっとだけ詳しいです。そんな私がいいたいこと、それは、

悪いことはいわないから、バイオの研究者になりたいなんて言わないほうが良いよ

ということ。

今回は、このあたりの事情についてお話ししてみたいと思います。

バイオに関わる仕事をするにはどうしたら良いのか、どうしたら研究者としてやっていけるのか、そういったことに興味のある人は是非とも目を通してみてください。

バイオの研究者になるってどういうこと?

主人公財前の1学年先輩の月浜は、バイオテクノロジーに興味をもっており、将来はバイオの研究者になりたいと語っています。

バイオ関係銘柄に興味をもった二人は、ミドリムシから夢の健康食品を作り出したベンチャー企業「ユーグレナ」の創業者である出雲氏に会いに東京まで出向いたりと、なかなかの行動力です。

ほかにも山中教授の生み出したiPS細胞の国際競争力の未来を憂うなど、中学生とは思えない世界観でバイオテクノロジーの取り巻く環境を俯瞰しています。

それだけに、バイオの研究者になって世界を変えるんだ、みたいな話しが出てくると、急にムムッ、となってしまうんですよね。

これって、ドラマとかで自分の詳しい領域が出てきたときに小さなことがらでも違和感を覚える、っていうのと同じ話しですね。

私の覚えた違和感というのは、バイオ研究者のこと、持ち上げ過ぎじゃない?ということ。

バイオの研究者というのは実は、不安定で、給料も安く、将来性もあまりない、そういった職業なんですよ。

こうやって書くと、それはお前の感想だろうというかもしれません。いやいや、これ、実は当の研究者たちが公式に出している声明なのです。

そんな馬鹿な!?という人は、こちらの資料をご覧ください。

生科連からの<重要なお願い>
生物科学学会連合 ポスドク問題検討委員会
http://www.nacos.com/seikaren/pdf/2015/seikaren_postdoc_2.pdf

長いのでまとめると、要はこういうことです。

  • バイオの研究者になりたいという若者が増えて大学の先生たちは喜んでいたが、彼らを雇うお金はなかった
  • それでも人手は欲しかったので、非正規雇用で当面の生活費は出してあげた(こうした人たちのことを「ポスドク」と呼びます)
  • 正規雇用のポジションは結局増えなかったので、ポスドクのまま年齢だけ重ねる研究者がめちゃくちゃ増えた
  • ポスドクの身分は不安定で、給料も安い。優秀な科学者がこうした待遇を受けるのは国家的損失だ
  • なので、産業界や公的機関のみなさん、彼らを何とかして雇ってください!

これを読んだとき私は、なんて優しいんだろう、と思いました。これはね、母親の優しさですよ。

私のイメージはこんな感じ。

ボロボロの割烹着をきたお母さん、普段はしないお化粧をして、自慢の息子を紹介してるんですよ。うちの息子、こう見えてとっても優秀なんです。いろいろ習い事もさせてあげて、立派に育ちました。だからどうかお願いです。お宅の会社で雇ってください。

いやいや、お母さん。そんな頭下げられてもね、私達も必要な人材なら積極的に採用してますんで、お母さんは安心しておうちでゆっくりしていてくださいよ。産業界側にいる人間としては思わずこう言いたくなります。

お母さんに連れ回されるご子息も可愛そうですねえ。さぞかし恥ずかしい思いをしていることと思いますよ。

現職研究者たちの本当に伝えたいこととは?

この<重要なお願い>という文章ですが、よくよく読むと実は結構へんてこりんな内容となっています。

まず、「経験を積んだシニアポスドクは行き場を失って」おり、「人材が唯一の資源である我が国にとって、あってはならない非効率な「もったいない」事態」だと書かれていますが、いつから日本の資源は人材だけになってしまったのでしょうか?

また、経験を積んだ研究者は「日本の宝」だといっておきながら、彼らがいつまで経っても就職できずにいることに対して、納得のいく説明がされていません。そんなに優秀な人材なら、なぜ雇用問題がここまで深刻化しているのでしょうか?

また、若手研究者の雇用問題が社会的な問題になっていると至るところで述べられていますが、ポスドクの雇用ごときで社会が大騒ぎしたという話しを聞いたことがありません。事実、私は今から2年前に出されたこの文章の存在をまったく知りませんでした。

世間の関心事はどちらかというと、STAP細胞事件のような研究不正問題や、大学教授による研究費の不正な使い込みなどといった不祥事に対して向けられています。

私はあえてここでいいますけどね、この文章を書いた人たちは若手研究者の雇用問題を解決したいという思いもあるでしょうけれど、それよりもどちらかといえば自分たち研究者の社会的意義を再確認してもらいたい、そんな意図が透けて見えます。

本来社会からもっと評価されてしかるべき科学者の地位が下がり続けており、自分たちの育て上げた人材が転職マーケットの中で全く評価されていない。そういったことに対して、自分たち自身の存在価値まで否定されたような気分になり、こうした声明を慌てて出しているように見えます。まあはっきりいって、怪文書といって良いレベルです。

それで、なぜこんなことになってしまったかというと、一言で言えばバイオ系の研究者の社会的な存在価値が変わってしまったからですね。はっきりいって、基礎系のバイオ科学者は、もう昔ほど必要ないのです。必要ないから人材ポストも増えないし、いつまでたっても受け皿が生まれないのです。

バイオ研究は、基礎的な領域を人海戦術で調べ上げるフェーズはとっくの昔に終了しました。これからは、こうした発見をいかに臨床の現場、もっといえばビジネスの現場に移していくのか、そういった時代を迎えようとしています。

バイオ研究者になるためのキャリアパス

さて、ここからがようやく本題。

それではこれからの時代を生きる若い人たちがバイオの領域で活躍するには、どうしたらよいでしょうか?

もしこれを読んでいるのがインベスターZに出てくるような中学生や高校生であるのならば、迷わず医学部進学を勧めます。これからバイオの研究をしたいのであれば、医学部以外は選択肢に上がりません。もうこれは絶対的な真実です。理学部などの基礎系に行って大腸菌や培養細胞だけで結果を出せるのは、本当に限られた超一流の天才科学者だけです。

それ以外の科学者は、実際に人体と向き合って研究する必要があります。そのためには医師免許を持っていることが絶対的な条件なのです。

もちろん、医学部にいけば医師免許を取得でき、安定した収入を得られるというのも大きなメリットです。研究と生活をどのように両立させるかというのも、科学者として生きるために考えておかなくてはいけない重要なポイントなのです。

残念ながら医学部に進学できなかったらどうするか。その場合でも、なるべく医学部に近い領域で勉強するべきです。あるいは、大学院から医学部へ進学するという手もあります。臨床研究でしっかりと学んだ経験は、将来バイオで食べていこうとするときに、必ず役に立つはずです。

逆に、さきほどの<重要なお願い>を出すような学会をメインとしている研究領域には近づかないことです。章末に加盟団体の一覧が出ていますので、参考にしておくと良いでしょう。

そうして博士号を取得したら、アカデミアからはさっさと離れて民間企業に就職しましょう。新卒切符をポスドクという非正規雇用枠に使うってしまうことほどもったいないことはありません。

これが今のところ私の考える、もっとも確実なバイオ研究者のキャリアです。

もちろん、これ以外にも魅力的なキャリアの作り方はたくさんあると思います。面白い経歴や変わった方法などがありましたら、是非ともお知らせ下さい。

いずれにしても、おせっかいお母さんの庇護のもとで何年も非正規研究者を続けることだけは避けるようにしましょう。

まとめ

今回はバイオの世界に進みたいと考えている若い人たちに向けて、現状のアカデミアの惨状をお伝えすることで、「進んではいけない」方向を示してみました。

それでもどうしても研究者になりたい、民間企業への転職はポスドクをしてからでも遅くない、と考えている方には、私の転職体験段をお送りしたいと思います。

ポスドク転職物語

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