研究

理研の無期雇用枠拡大は日本のアカデミアを救うのか?

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日本最大級の公的な科学研究機関である理化学研究所(理研)が、任期付きの研究者を無期雇用に転換する制度を4月から導入するという報道がなされました。

理研のこの制度は、人材問題で行き詰った日本のアカデミアにとって朗報となるものなのでしょうか?

理研が研究者の無期雇用枠を拡大

2017年1月8日の読売新聞に、理研が無期雇用の研究者の割合を増加させる方針であるという内容の記事が掲載されました。

報道元の読売新聞の記事は既にWeb上から削除されてしまったため、代わりにこちらの記事を貼っておきます。

理研が研究者の無期雇用枠を拡大へ
http://scienceandtechnology.jp/archives/11602
(日本の科学と技術)

大元の記事によりますと、60歳の定年まで働ける長期雇用の研究者を将来的に全体の4割まで増やす、そしてそのための新制度を4月から導入するとあります。その具体的な内容ですが、

理研の計画によると、まずリーダー格の任期付き研究者を対象に公募を始め、審査のうえ、4月から60歳までの長期雇用に変える。その後は、若手を含む一般研究職にも新制度を拡大、新規採用でも長期雇用を増やす。

(2017年1月8日 読売新聞)

とあります。

日本のアカデミア(大学や理研のような公的研究機関)では90年台の終わりごろより任期付きの研究者の数が爆発的に増加しており、契約終了後に職を失ってしまったり低賃金の非正規労働を余儀なくされてしまう、いわゆる「高学歴ワーキングプア」が問題となっています。

理研の今回の方針転換が本当だとすると、非正規労働で苦しんでいる若手研究者にとっては明るいニュースとなるはずですが、実際のところはどうなのでしょうか。

増え続ける非正規研究者

非正規雇用の研究者が増加していることは、理研が出している以下の資料からも明らかです。

「理化学研究所における 研究人事制度の現状と今後の課題」(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/023/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/03/06/1355646_03.pdf)より

正規雇用の研究員の数は1986年に477人だったのが、2013年には338人まで減少しています。一方で、2013年の非正規研究員は2600人以上に達しており、これは実に全研究者の88%という数字となっています。研究開発を中心とする民間企業などからすると、この値はほとんど異常といえる水準です。

先程の報道の通り、4割が長期雇用研究者となった場合、研究者の数自体を変えないとするならば新たに800人以上が正規雇用として採用される計算となります。

理研の予算は厳しい状態が続いている

仮に800人もの正規雇用研究者を増やしたとすると、気になるのはその財源です。

理研の予算内訳を見てみると、人件費などに割り当てられる基盤的予算の運営費交付金は平成28年度で515億円となっています。その他、大型施設に対する補助金や競争的資金などを含めた予算全体は28年度で900億円となっており、運営費交付金の割合は6割未満といったところです。

ちなみに平成17年度(2005年度)の運営費交付金は711億円で、全予算に占める割合は8割を超えています。運営費交付金はこの10年あまりで、実に200億円も減っていることになります。

大学等も含めた運営費交付金の支出額全体はここ数年で減少し続けており、これが増加する見込みはありません。無期雇用枠拡大にあたって必要となる人件費の確保について、基盤的予算である運営費交付金を当てにすることはできなさそうです。

改正労働契約法への対応

そんな中、twitterを眺めていると気になる投稿がありました。

改正労契法とは改正労働契約法のことを指していますが、この法律では有期労働契約が5年を超えた労働者に対して、労働者からの申込みに対して雇用者は無期労働契約に転換しなければならないというルール、いわゆる無期転換ルールが定められています。

ただし研究者の場合には特例があって「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」というとんでもなく長い法律により、研究者はこの期間が10年となっています。

要するに、非正規雇用として10年以上働いている研究者に対して、雇用機関は彼らを無期雇用にしなければならないというルールがあるわけです。

ただし、現在非正規の研究者を全員無期雇用にする財源はありませんから、普通に考えれば10年を迎える前に労働契約を打ち切ってしまい、このルールを適用させないようにするのが合理的な判断です。いわゆる雇い止めというやつですね。先程のtweetはこのことを指しています。

実は理研もこの問題についてはことあるごとに言及しており、毎年発表される年度計画にもこのことがしっかりと書かれています。

理研平成28年度事業計画(http://www.riken.jp/~/media/riken/about/plan/pdf/plan2016_2.pdf)より。赤線筆者による。

理研としては無期雇用職を増加させるというよりも、限界値以上にまで増えすぎてしまった非正規研究者の問題を労働契約法をにらみつつこの機会に正常化させようと、そういった思惑があるように思われます。

無期雇用者の数自体は多少増加するかもしれませんが、それよりも非正規雇用の研究者の大幅な縮小が待ち受けているでしょう。それにしても全体の9割近くを占める任期付き研究員を整理したとして、これまでのような研究活動をどのように維持するのか、課題は残りそうです。

キャリアを決めるのは自分次第

読売新聞の報道は理研の方針転換を非常にポジティブに伝えているような印象を与えますが、実際のところはそれほど明るい話という訳でもなく、非正規雇用の研究者の大量雇い止めという問題をはらんでいます。

もっとも、ポスドクたちはそもそも無期雇用に転換されるなどといった話しは最初から信用していないでしょうし、いずれは次の職を探さなくてはいけないと身にしみて感じているでしょうから、雇い止めというか任期満了後にポジションがなかったとしても文句をいう人は少ないでしょう。理研の構造改革は音もなく静かに着々と進行するのではないでしょうか。

それにしてもポスドク1万人計画で立ち上がった非正規雇用枠の拡大による研究者人口の拡大という計画は、20年の月日を経て労働契約法という法律を目の前にして静かに幕を降ろしそうな雰囲気です。

ポスドク1万人計画にしても労働契約法にしても、結局のところ研究者個人の考え方ややり方ではどうにもならない、政府や行政の大きな力で決まってしまうものなのですね。アカデミアで生き残るということは、こうした目に見えない力学と上手に付き合っていかざるを得ないのかとも思います。

かといって民間企業で働けば自分の思い通りにいくかというとそんなことは全くないわけで、資本主義社会における労働のあり方とはなんだろうかとか、私自身もそんなことを考えながら日々生活しております。

ただひとつ言えるのは、キャリアを決めるのは自分次第ということですね。国や政府を責めても何も生み出しませんし、アカデミアの雇用環境が破綻しているのは数年前から既に周知の事実でした。それでも諦めずに研究を続けるのか、それとも民間企業への転職に活路を見出すのか、最終的に人生の舵とりをするのは自分次第ということに変わりはないのです。

まとめ

理研の無期雇用枠の拡大はアカデミアの労働構造を変えるトリガーとなる可能性があります。しかしそれは研究者にとっての朗報などではなく、アカデミアの終わりの始まりを告げる合図になるのではないでしょうか。

私自身は数年前にアカデミアから民間企業へ転職しましたが、今でもこの判断には満足しています。数年前と違い、民間の博士に対する眼差しはかなり変わってきており、転職マーケットは活況を呈しています。

転職に少しでも興味がある方は、まずは下記の記事あたりからご覧になることをおすすめいたします。

ポスドク・若手研究者のための転職完全マニュアル【アカデミアから脱出せよ!】

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