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若手研究者の前に立ちはだかるアカデミアの二つの壁とは?

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大学などのアカデミアで研究を続けている若手研究者にとって、任期期限のないテニュア職(教授など)に就くことは研究者人生の一つの目標とも言えるでしょう。

ところがそんな若手研究者の行く手には巨大な壁が立ちはだかっています。それは、希少な正規職員ポジションを独占している高齢教員の存在です。

今回は若手研究員のキャリアをはばむアカデミアの二つの壁について、各種統計資料などを参考にしながら見ていきたいと思います。

第1の壁:任期付きという名のもとに隠されている真実とは?

若手研究者をとりまく雇用環境は急速に悪化しており、「ポスドク問題」や「高学歴ワーキングプア」などといった呼び方がすっかり定着してしまいました。

それではこれらの問題はいったい何なのかというと、端的にいって研究者がいつまでも非正規雇用から抜け出せずにいる状態にいるということにほかなりません。

アカデミア界隈では「任期制」や「特任」などといった言葉を使って実態をごまかす悪習がすっかり広まってしまっていますが、これらは要するに非正規雇用ということです。「非正規」という言葉を使うとあまりにもイメージが悪いために敢えてそうした言葉を使わないようにしているだけで、実態は非正規以外の何物でもありません。

このように書くと非正規雇用が悪いといっていると感じられかも知れませんが、率直にいって現代の日本において非正規雇用を続けることは極めてリスクが高いと言わざるを得ません。正規職は労働基準法によって過剰なまでに保護されており、一種の特権階級となってしまっています。労働というキャリアを考える上で、いかにして正規職ポジションを手に入れるかは極めて重要な事柄といって良いでしょう。

ここで興味深いデータを示したいと思います。日本労働研究雑誌の2015年7月号に、「若手研究者の任期制雇用の現状」と題された特集記事が掲載されています。以下のデータはこの記事からの引用です。

この図では、大学教員の非正規比率を年代ごとにまとめたものが示されています。これによると25-34歳の大学教員の実に50%以上が非正規雇用状態となっていることが分かります。

日本社会全体においても非正規雇用の割合が急速に増加しており、2014年には実に40%もの人が非正規雇用となっています。ところがその実態をよく見てみると、実は非正規の割合は高齢になるほど高くなっており、35−44歳の男性に限ってみればその割合は10%程度にまで下がります。つまり、よく言われている労働の非正規化というのは主に高年齢層の労働者で起こっていることなのです。

ところが大学教員では全く逆のことが起こっています。先の図で分かる通り、非正規雇用の割合は若年層になるほど高まっており、年齢が上昇するに従ってその割合は極端に減少しています。

このように、アカデミアに立ちはだかる第一の壁は博士号を取得して新卒として社会人になろうとしている若手に対して、正規職員ポストがあまりにも少ないという点です。

どこの世界に、苦労して進学したにも関わらず普通に大学に出るよりも正社員になれる確率が低い場所へ進もうとする人がいるのでしょうか。大学院博士課程への進学者が激減しているという事実は、このことを如実に示しているのです。

第2の壁:若手の活躍を奪っているのは誰なのか?

さきほどの図では、大学教員の非正規の割合は年齢が高くなるほど減少することが示されていました。これは、長年アカデミアで研究を続けることで、いつかは正規職員になれるということを意味しているのでしょうか?

このことについて、先のほどと同じ記事で興味深いデータが出ています。ある年に非正規雇用の状態である研究員が翌年までに正規職に移行することができる確率を調査した結果、なんとたったの6.3%しかないことが分かったのです。ちなみに一般の大卒男性が非正規から正規職に移行できる確率は21.7%とあるので、ポスドクなどの非正規研究者が正規職に就くことがいかに難しいかお分かりいただけると思います。

常識的に考えて、100回のうち6回程度しか成功しないような事象に人生をかけるというのは、ほとんどギャンブルの領域といってもよいでしょう。

それではなぜこれほどまでに正規職員への道が険しいのか。この理由を示しているのが、文部科学省がおこなった「大学教員の雇用状況に関する調査」と呼ばれる報告書の中の下図に見て取れます。

大学教員の雇用状況に関する調査-学術研究懇談会(RU11)の大学群における教員の任期と雇用財源について
http://www.nistep.go.jp/archives/22836

この図で分かることは2つあります。まず、30〜44歳の若手研究者において「任期付き」の人数が平成19年から平成25年の6年間の間に急激に増加しているということ。そしてもう一つは、60〜64歳の高齢教員の「任期無し」の人数が同時期に急激に増加しているということです。

つまり、アカデミアにおいて希少ともいえる任期無しポジションは、定年延長などによって大学にとどまり続ける60歳以上の高齢教員によって奪われてしまっているのです。

若手研究員の前に立ちはだかる2つ目の壁は、任期無しポジションを独占している高齢教員ということになります。

先程も少し触れたように、民間企業における労働力の非正規化は主に高齢の人材で進行しています。マーケットの原理でいえば、労働コストが低く成長のポテンシャルも高い若手の方が正規職員化される可能性が高いのは合理的な判断ですが、アカデミアではこれとはまったく逆のことが起こっているのです。

雇用環境の苦しみを高齢教員はどの程度理解できるのか?

厳しさを増す若手研究者の労働環境をどうしていくのか、将来の鍵を握っているのはこうした高齢からミドルクラスの教員たちでしょう。ノーベル賞を受賞した大隅教授が受賞会見の中でまっさきに若手の労働問題について言及したのは、こうした事情を鑑みてのことだと思われます。

ちなみに大隅教授はアカデミアの中でも珍しいくらい謙虚で紳士的な人物として有名な方です。アカデミアの高齢教員がみな大隅教授のような徳をもった人物であると確信がもてるのならば、若手の労働問題についてこのような教員が政治的なアプローチなどを通してひと肌脱いでくれるという未来に賭けても良いでしょう。

ただこれは私の経験でしかないのですが、雇用環境の苦しみというのは当事者であったり苦労したことのある人でなければなかなか分かるものではないのではないでしょうか。

今ほど雇用問題がクローズアップされていなかった時代に、コネや政治力などで正規職員のポジションをゲットできた高齢教官が、どの程度若手のことについて真剣に考える気があるのか、冷静に分析したほうが良いと思います。

若手研究者に残された道とは?

ちなみにこうした問題について当事者である若手研究者が政治的な運動を起こすことについては、私は反対です。ポリティクスに費やす時間があるのならば、それらを研究活動に費やしたほうがまだましではないでしょうか。

そして研究活動にも疲れ果ててしまったのなら、是非とも民間企業への転職をおすすめします。その理由や具体的な方法については、このブログで何度も取り上げてきているので、それらを参考にしてください。代表的な記事でいえば、

研究者の転職先は研究職だけ?意外と魅力的なノンリサーチというキャリアについて。
ポスドクが民間企業で年収800万円を稼ぐための戦略的転職法とは?

などになります。

民間企業への転職については、40代からでも正社員職を手にするチャンスが十分にあるのは先の統計資料の通りです。ただし、動けるのならば早いに越したことはありません。あとになって、あの数年間のポスドク期間はなんて無駄だったんだろうと思わないためには、今すぐ行動を起こすことが重要です。

まとめ

今回は若手研究者がアカデミアで活躍することを難しくしている要因について、政府の発行している資料などから読み解いてみました。

今回紹介した統計資料は、ポスドクや特任助教といった若手研究者が将来の展望を考える上で極めて重要な資料です。時間があれば、ぜひとも本文全てに目を通して多く事をお勧めします。

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