研究

博士課程にはどんな人がいくの?進学か就職で迷ったら見ておくべきデータ

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大学卒業後の進路として大学院に進学する場合、まずは修士課程と呼ばれる2年間のコースを取ることになります。さらに研究を続けたい場合は、その上にある3年間の博士課程のコースに進むことで、博士号の学位を手に入れることができます。

最近は大学院に進学することも珍しいことではなくなってきており、特に理系の学生の場合、学科によってはほとんど全員が修士課程に進学するケースもあるようです。

ところがその上の博士課程となると進学率はぐっと減り、本当に一握りの人だけが博士課程の道へ進むといった感じになります。

私が学生だったころから博士課程に進学するかどうかは修士の学生にとって大変重要な問題でした。頑張って博士課程に進学して博士号という「名誉」を手に入れるか、それとも修士のうちに就職活動して安定を選ぶか、修士課程の学生は進学した瞬間から人生の選択を迫られるのです。

そんな中、実は博士課程の進学についてここ10年ほどの間に驚くほどの大きな変化が起こっていることをご存知でしょうか?

今回は博士課程に進学する人たちの顔ぶれの変化についてお伝えしたいと思います。

博士課程に進学するか、それとも企業に就職するか、そんな2択で悩んでいる学生の方はまずは以下のデータをみてください。そして、自分の人生に悔いのない選択をしましょう。

減少し続ける博士課程への進学者

大学院の博士課程への進学者については、文部科学省が毎年実施している学校基本調査に詳しく記載されています。

学校基本調査:文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

これによりますと、平成29年に大学院博士課程に入学した人は14,766人となっています。もっとも入学者数が多かったのは平成15年の18,232人ですので、この14年間で実に2割近く減少していることになります。この結果をグラフにすると以下のようになります。

このグラフからもひと目で分かるように、博士課程の入学者数は右肩下がりに減少しています。ちなみにこの傾向は入学希望者数でも同様であり、博士課程の定員が絞り込まれているのではなく、博士課程に進学したいと考えている人数自体が減り続けていることが分かります。

入学者数の減少は下げ止まりの兆候をみせておらず、今後想定される人口減の影響を受けてその数はさらに少なくなるものと思われます。

増え続ける社会人入学のナゾ

そんな中、先程のグラフで特徴的なのが大学院博士課程に進学する社会人の割合です。グラフから明らかなように、社会人入学者の数は平成15年から右肩上がりに増加しているのです。これは博士課程入学者の総数とは全く逆のトレンドを示しています。

社会人入学者数が増えること自体は、文科省としては好ましいことでしょう。人口減で大学院への進学者数は今後減り続けることは間違いありません。そこで社会人という新たなマーケットに目を向けることで、減少する学生数を補填しようと考えるのはマーケティング的には正しい視点といえるでしょう。

しかしそれにしてもこの増え方はいったいなんなのでしょうか?もう少し詳しくみていきましょう。

社会人入学の4割は医者の卵

実は社会人入学者数増加の原因の一つは以外なところにあります。

下記の図は大学院博士課程全体に占める社会人学生の割合を示したものです。

平成29年における博士課程在学者数のうち、おおよそ3万人が社会人であり、そのうちの実に4割医学・歯学系となっています。実はこの医学・歯学系社会人こそが、増え続ける社会人学生の正体です。それではこの人達は何者かといえば、端的に言えばいわゆる「医者の卵」と呼ばれる人たちです。

もう少し正確に言えば、医師免許を取得するための6年間の学部教育を終え、研修医として医局などでの研修をしている医師たちが、博士号という「もう一つの資格」を得るために4年制の博士課程に入学してきているのです。彼らは新米といえども医師として給与の発生する勤務をした経験があるため、統計上は「社会人」としてカウントされるのです。

先のグラフの元となっているデータが下記の表です。

医歯学系社会人 その他社会人 非社会人
H20 9,417 15,583 49,231
H21 9,321 15,679 48,565
H22 10,165 15,835 48,432
H23 10,826 16,137 47,816
H24 10,811 16,260 47,245
H25 11,318 16,567 46,032
H26 11,991 17,091 44,622
H27 12,306 17,715 43,856
H28 12,785 18,198 42,868
H29 13,224 18,222 42,467

非社会人、つまり修士課程からそのまま進学してきている学生の減少は著しいです。一方でそれらの減少を補うような形で社会人の大学院生は増加しています。特に、医学・歯学系の学生は平成20年から平成29年にかけての伸び率は実に40%を超えています。また、医歯学系以外のその他の社会人数も緩やかに増加しており、かなりの存在感をみせています。

こうして数値を見ると、博士課程でおこっているドラスティックな変化がより一層鮮明になります。

これにより大学院博士課程の学生数自体はここ数年でそれほど変化もないように見えるのですが、その中身に関してはほぼ別物の何かに変わろうとしていることが分かります。

非・医歯学系の若手研究者に降りかかる負担

実は増え続ける医学・歯学系の博士課程の学生については、私の回りにいる若手研究者からもいろいろな話を聞いています。もっともよく聞くのが、ほとんど実験の初心者である彼らをつきっきりで指導しなくてはならないといった話です。

率直にいって、将来臨床医として患者さんの治療にあたるつもりでいる医師が、大学院の4年間でできる研究には限界があります。本人たちもそのことはよく分かっているため、実験もどこか他人事になりがちです。データを出している途中で臨床の仕事が入ることも多いため、残りは研究者のポスドクなどに任せておく、などといったことも頻繁に起こるのです。

もちろん全ての医師がそういった態度であるとはいいませんが、ここ数年の博士課程の異様な伸び率を見る限りでは、昔であれば来なかったような人まで研究室で「実験もどき」を始めているというのも、ない話ではありません。

そしてこれによってもっとも割を食うのは、結局のところ非正規雇用として臨時で雇われている医師資格のない若手研究者たちです。学生とはいえでもお医者さんである彼らの指導を、不安定かつ低給な研究者が担っているというのも皮肉な話です。

それでも博士課程に進学する?

これまで見てきたように、博士課程に進学する学生の割合は近年著しく減少しています。しかもその減少率は、急増する医学・歯学系の「社会人」学生によってマイルドに中和されたものです。

つまり、修士の学生からそのまま博士課程に進学する人数というものは、ここ数年で急激に減っていると見て良いでしょう。今の時代にあっては、修士から博士へ進学するというのは圧倒的なマイノリティであるということを、学生の方はしっかりと自覚しておくのがよいと思います。

したがって、10年くらい前に博士課程に進学したような先輩の言葉や経験談は、もはや今の時代には当てはまらないと見ておくべきです。

もちろんやりたい研究があるのならば、そして進学するに値する研究室であると確信がもてるのならば、博士号取得は十分価値のあることです。博士課程修了後も、今はアカデミアに残らないで就職する方法はたくさんあります。

しかし、進学するかどうか迷っているくらいの気持ちであれば、はっきりいって博士課程進学はおすすめできません。エキサイティングな仕事は民間企業で十分におこなうこともできます。もちろん、給料と手厚い福利厚生を受け取りながらです。


アカデミアに残るべきか?

同様にアカデミアに残ってポスドクなどの非正規雇用で苦しんでいる方たちも、こうした現実を冷静に分析してみると良いと思います。

研究がつまらなく感じられたり、研究以外の労働負担が過剰に感じられている場合、その原因はここで見てきたようなアカデミアのドラスティックな構造変化に由来しているものかもしれません。

学生数の急減と医局の急速な拡大というこれまでにない流れが、ポスドクというもっとも不安定な身分の人たちの犠牲の上で成り立っているのであるとすれば、これほど不幸なことはありません。

ポスドクたちが活躍する場は民間企業にいくらでもあります。今からでも遅くないので、新しい道を切り開く準備をしてみてはどうでしょうか。そしてそのための方法については、このブログの過去の記事を是非とも参考にしていただきたいと思います。

ちなみに、おそらく今ポスドクにとってもっとも頼りになるのは、文部科学省でも教授の先生でもなく、転職エージェントでしょう。
⇒ 転職を考えているポスドクが知っておきたい転職エージェント3選とその活用法

まとめ

今回は文部科学省の学校基本調査をもとに、博士課程に進学する人たちがどのように変化しているのかについて見てきました。こうしたまとめについては2016年の調査結果発表時からフォローしており、来年以降も継続して続けていきたいと思います。

博士課程の入学者数が減ることは、大学、ひいては文部科学省に取っても好ましくありません。大学が受け取る授業料収入が減少し、経営を圧迫するからです。したがって、このような話題はアカデミアの内部からはあまり聞くことがありません。

進学か就職か、そんな二者択一で悩んでいる修士課程の学生の方は、是非ともこうした基本的な情報を頭に入れておくことをお勧めします。

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