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大学院の博士課程にはどんな人が進学しているのか?統計情報があぶり出す最新のヤバイ状況とは。

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大学卒業後の進路として大学院に進学する場合、まずは修士課程と呼ばれる2年間のコースを取ることになります。さらに研究を続けたい場合は、その上にある3年間の博士課程のコースに進むことで、博士号の学位を手に入れることができます。

最近は大学院に進学することも珍しいことではなくなってきており、特に理系の学生の場合、学科によってはほとんど全員が修士課程に進学するケースもあるようです。

ところがその上の博士課程となると進学率はぐっと減り、本当に一握りの人だけが博士課程の道へ進むといった感じになります。

私が学生だったころから博士課程に進学するかどうかは修士の学生にとって大変重要な問題でした。頑張って博士課程に進学して博士号という「名誉」を手に入れるか、それとも修士のうちに就職活動して安定を選ぶか、修士課程の学生は進学した瞬間から人生の選択を迫られるのです。

そんな中、実は博士課程の進学についてここ10年ほどの間に驚くほどの大きな変化が起こっていることをご存知でしょうか?今回は博士課程に進学する人たちの顔ぶれの変化についてお伝えしたいと思います。

減少し続ける博士課程への進学者

大学院の博士課程への進学者については、文部科学省が毎年実施している学校基本調査に詳しく記載されています。

学校基本調査:文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

これによりますと、平成28年に大学院博士課程に入学した人は14,972人となっています。もっとも入学者数が多かったのは平成15年の18,232人ですので、この13年間で実に18%近く減少していることになります。この結果をグラフにすると以下のようになります。

このグラフからもひと目で分かるように、博士課程の入学者数は右肩下がりに減少しています。ちなみにこの傾向は入学希望者数でも同様であり、博士課程の定員が絞り込まれているのではなく、博士課程に進学したいと考えている人数自体が減り続けていることが分かります。

入学者数の減少は下げ止まりの兆候をみせておらず、今後想定される人口減の影響を受けてその数はさらに少なくなるものと思われます。

増え続ける社会人入学のナゾ

そんな中、先程のグラフで特徴的なのが大学院博士課程に進学する社会人の割合です。グラフから明らかなように、社会人入学者の数は平成15年から右肩上がりに増加しているのです。これは博士課程入学者の総数とは全く逆のトレンドを示しています。

社会人入学者数が増えること自体は、文科省としては好ましいことでしょう。人口減で大学院への進学者数は今後減り続けることは間違いありません。そこで社会人という新たなマーケットに目を向けることで、減少する学生数を補填しようと考えるのはマーケティング的には正しい視点といえるえしょう。

しかしそれにしてもこの増え方はいったいなんなのでしょうか?会社勤めをしている人が、最新の研究について勉強し直そうと思って大学院に進学するなどといったことが、ここ数年のうちにこれほどまでに増加したのでしょうか。

社会人入学の6割は医者の卵

実は社会人入学者数増加の原因は以外なところにあります。

下記の図は大学院博士課程全体に占める社会人学生の割合を示したものです。

平成28年における博士課程在学者数のうち、おおよそ3万人が社会人であり、そのうちの実に61.5%医学・歯学系となっています。実はこの医学・歯学系社会人こそが、増え続ける社会人学生の正体なのです。それではこの人達は何者かといえば、端的に言えばいわゆる「医者の卵」なのです。

もう少し正確に言えば、医師免許を取得するための6年間の学部教育を終え、研修医として医局などでの研修をしている医師たちが、博士号という「もう一つの資格」を得るために4年制の博士課程に入学してきているのです。彼らは新米といえども医師として給与の発生する勤務をした経験があるため、統計上は「社会人」としてカウントされるのです。

先のグラフの元となっているデータが下記の表です。

医歯学系社会人 その他社会人 非社会人
H20 11,875 13,125 49,231
H21 11,800 13,200 48,565
H22 13,026 12,974 48,432
H23 14,183 12,780 47,816
H24 14,321 12,750 47,245
H25 15,393 12,492 46,032
H26 17,071 12,011 44,622
H27 17,983 12,038 43,856
H28 19,055 11,928 42,868

こうして数値を見ると、博士課程でおこっているドラスティックな変化がより一層鮮明になります。

非社会人、つまり修士課程からそのまま進学してきている学生の減少は著しいです。その他社会人(社会人のうち、医学・歯学系以外の人たち)も減少基調にあります。一方でそれらの減少を補うような形で医学・歯学系の学生が急増しています。平成20年から平成28年にかけての伸び率は実に60%を超えています。

これにより大学院博士課程の学生数自体はここ数年でそれほど変化もないように見えるのですが、その中身に関してはほぼ別物の何かに変わろうとしていることが分かります。

ポスドクに降りかかる負担

実は増え続ける医学・歯学系の博士課程の学生については、私の回りにいる元ポスドクからもいろいろな話を聞いています。もっともよく聞くのが、ほとんど実験の初心者である彼らをつきっきりで指導しなくてはならないといった話です。

率直にいって、将来臨床医として患者さんの治療にあたるつもりでいる医師が、大学院の4年間でできる研究には限界があります。本人たちもそのことはよく分かっているため、実験もどこか他人事になりがちです。データを出している途中で臨床の仕事が入ることも多いため、残りはポスドクに任せておく、などといったことも頻繁に起こるのです。

もちろん全ての医師がそういった態度であるとはいいませんが、ここ数年の博士課程の異様な伸び率を見る限りでは、昔であれば来なかったような人まで研究室で「実験もどき」を始めているというのも、ない話ではなさそうです。

そしてこれによってもっとも割を食うのは、非正規雇用として臨時で雇われている医師資格のないポスドクたちであるのは間違いないでしょう。学生とはいえでもお医者さんである彼らの指導を、不安定かつ低給なポスドクが担っているというのも皮肉な話です。

それでも博士課程に進学する?

これまで見てきたように、博士課程に進学する学生の割合は近年著しく減少しています。しかもその減少率は、急増する医学・歯学系の「社会人」学生によってマイルドに中和されたものです。

つまり、修士の学生からそのまま博士課程に進学する人数というものは、ここ数年で急激に減っていると見て良いでしょう。今の時代にあっては、修士から博士へ進学するというのは圧倒的なマイノリティであるということを、学生の方はしっかりと自覚しておくのがよいと思います。

はっきりいって、こういった変化の中で博士課程に進学した人経験のある人はいまだかつていません。したがって、これから何が起こるのか予測できる人は世の中に誰もいないと思っておいたほうが良いでしょう。大事なのは今起こっていることを冷静に見つめ、自分の頭で考えることなのです。

そしてそれができてさえいれば、博士課程に進学することもそれほど恐ろしいことではありません。やりたい研究があるのならば、そして進学するに値する研究室であると確信がもてるのならば、博士号取得は十分価値のあることです。進学後についても、今はアカデミアに残らないで就職する方法もたくさんあります。

博士課程に進学しようか悩んでいる学生の方は、ぜひともこちらの記事も参考にしてみてください。

なぜブラック研究室を見分けるのに論文リストを見るのが良いのか
研究者の転職先は研究職だけ?意外と魅力的なノンリサーチというキャリアについて。

アカデミアに残るべきか?

同様にアカデミアに残ってポスドクなどの非正規雇用で苦しんでいる方たちも、こうした現実を冷静に分析してみると良いと思います。

研究がつまらなく感じられたり、研究以外の労働負担が過剰に感じられている場合、その原因はここで見てきたようなアカデミアのドラスティックな構造変化に由来しているものかもしれません。

学生数の急減と医局の急速な拡大というこれまでにない流れが、ポスドクというもっとも不安定な身分の人たちの犠牲の上で成り立っているのであるとすれば、これほど不幸なことはありません。

ポスドクたちが活躍する場は民間企業にいくらでもあります。今からでも遅くないので、新しい道を切り開く準備をしてみてはどうでしょうか。そしてそのための方法については、このブログの過去の記事を是非とも参考にしていただきたいと思います。

ちなみに、おそらく今ポスドクにとってもっとも頼りになるのは、文部科学省でも教授の先生でもなく、転職エージェントでしょう。
⇒ 転職を考えているポスドクが知っておきたい転職エージェント3選とその活用法

まとめ

今回は文部科学省の学校基本調査をもとに、博士課程に進学する人たちがどのように変化しているのかについて見てきました。

お恥ずかしながら私自身もここまで博士課程進学者の顔ぶれが変わってきていることを、データを見るまで知りませんでした。この傾向については、来年以降の調査結果を見ながらフォローし続けていきたいと思います。

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