私は数年前、バイオ系の研究者として非正規雇用の条件(= ポスドク)で働いていました。
研究室の環境は整っておらず、研究員や学生はみな疲弊しているようでした。当時の様子を物語風にアレンジしたものがポスドク転職物語です。
このような環境の研究室を、今ではブラック企業になぞらえて「ブラック研究室」と呼ぶようになっています。
私が研究をしていた当時はそのような言葉はありませんでしたが、現在の大学・アカデミアが陥っている環境をうまく表した表現であると思います。
今回はブラック研究室にうっかり入ってしまわないための簡単な見分け方について紹介してみようと思います。その方法とはずばり、研究室の論文リストを見ようということです。
この方法は基本的には博士号を取得するために研究室に進学しようとしている学生向きではありますが、修士卒を目指す学生にとっても、あるいはポスドクとしての配属を希望している人にとっても役に立つ考え方だと思います。
研究室選びで悩んでいたら参考にしてみてください。
目次
そのラボはどのような論文を出しているのか
まず、そのラボがここ数年のうちに出した論文リストを入手していましょう。ほとんどの場合は研究室ホームページから参照できます。
大前提として、論文数が少ないラボは避けた方が良いです。研究室の規模にも寄りますが、年に1−2報程度しか出ていないようなところには基本的には近づかないようにしましょう。
それと、有名所のラボで良くあるのがNatureの姉妹誌(Nature BiotechnoogyとかNature Cell Biologyなど)に定期的に掲載されているケースです。一見華やかななのですが、よく見ると論文掲載はこれらの雑誌に年に1回だけで、その他のジャーナルには一切投稿していないような場合が結構あります。こういうところは個人的にはおすすめしません。
注意しなくてはいけないのは、NatureやCellなどのビッグジャーナルが立て続けにでている場合で、そのようなところも相当程度注意する必要があります。
さて、このようなことについて注意しなくてはいけない理由について、一つ一つ見ていくことにしよう。
論文を出すことが研究室の使命
良いか悪いかは別として、現代のアカデミアにおける研究室の存在意義は論文を出すことです。それはちょうど企業が利益をあげなくていはいけないことに似ています。
論文を出せていないラボはそれだけで価値が低く、従ってそのようなところには近づいてはいけないというのが私の考えです。
このように書くと元も子もありませが、このような状態にしてしまったそもそもの元凶はアカデミアにあります。熾烈な教員ポストへの競争にもっとも有効なのは論文数であり、それは取りも直さず論文こそが業績を測る上でもっとも重要だというアカデミアからのメッセージなのです。
また博士号を取得するためには論文を出す必要がありますが、論文が出にくいラボでは博士号がそもそも取得しにくいという現状があります。若い学生にとっても、研究室の論文投稿力というのは重要なのです。
有名ジャーナルに掲載されるためには多大な犠牲が必要
Natureの姉妹誌にやたらと投稿しているラボも注意が必要です。
なぜなら、これらの雑誌への投稿は業績としては派手ですが、そのために要される時間や労力はかなりのものになるからです。
こうした雑誌に確実に投稿するには、研究室の複数の人間がやっている仕事をマージして一つの仕事としたり、あるいはテーマの範囲をどんどん拡大して巨大な仕事にすることが効果的です。
すると早く業績を上げたいポスドクや、学位取得のために論文が必要な学生にとっては、いつまでたっても自分の仕事が論文にならず、無駄に時間がだけが過ぎていくということになってしまいかねません。
私の知っている例でも、Natureの姉妹誌に載せるためにひたすら実験を繰り返させられた学生がいて、彼は学位を取るのに実に8年もかかっていたという話しを聞いたことがあります。
結局、任期期限のない教授だけが有名誌への投稿という果実を一番に得ることができ、学生やスタッフはただただ搾取されつづけるというシステムになっているのです。
Natureなどの超ハイレベル雑誌がやたら多いところは危険
研究者ならば誰でもNatureやScienceなどに自分の仕事が掲載されることに憧れをもつと思います。その憧れ自体は健全なものですが、それが行き過ぎてしまうのは研究活動を歪めることになりかねません。
大御所の先生のいる研究室では、Nature・Science以外への投稿は認めない、などといっているところが今だに結構あるようです。
そういうところで仕事をするといつまでたっても論文を出させてもらえないため、学位取得にとんでもない時間がかかります。よほど強い思い入れや自信がない限りは、近づかないほうが無難です。
それとこれはここだけの話しですが、そもそも研究というものは立て続けに人の目を引くような結果が出るなどということはなく、ほとんどの場合は地味なものなわけです。
にもかかわらずNature級の業績を上げ続けることができるというのは、少しおかしいと考えるのが普通の感覚ではないでしょうか。
端的に言って、こうした研究室では捏造や研究不正が発生しているリスクが極めて高いと考えるべきです。
またたとえ捏造がなかったとしても、Natureしか認めないなどといっている教授の強圧的な指導方針が生み出す空気が、研究の姿勢を歪めるのは間違いないことでしょう。
論文リストを見てどのようなラボに進むべきか決めよう
以上をふまえて、研究室選びの際の論文リスト活用法をまとめると次のようになるかと思います。
- まずホームページ上にしっかりと最新の業績が載っているかみましょう。そもそも何年もリストが更新されていないラボは、その時点で怪しいと思ったほうが良いです。
- 次に毎年の論文数をチェックしましょう。ラボの人数、規模にもよりますが、とにかく毎年コンスタントに出していることを確認しましょう。
- 年1−2本しか出ていないが、いずれも有名ジャーナルのようなところも注意が必要です。学位取得後はアカデミア以外の進学も視野に入れている人は近づかないほうが良いでしょう。自分の論文がどの雑誌に掲載されたかなどは、はっきりいって民間のキャリアではなんの意味ももちません。
- Nature、Science、Cellは絶対的な正義ではありません。場合によってはむしろ害悪でしかないので、これらの論文がたくさん出ているからといって惑わされないように。
まとめ
ブラック研究室には論文投稿のやり方に特有のクセのようなものがあります。今回はそれらのクセについて、研究室選びという観点から解説してみました。
これから研究室進学をする学生、とくに博士号を取得しようと考えている方は、是非とも参考にしてみてください。