ポスドク転職物語

ポスドク転職物語の副音声【苦悩編】

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こんにちは、作者のケンドーです。このあとがきでは物語の背景や当時考えたこと、あるいは本文中では触れられなかったことなどを、転職を終えた現在の視点で改めて振り返ってみようと思います。

「はじめに」で書いたとおり物語の細部はフィクションですが、おおまかな骨格などは私が実際に体験したことをベースにしています。

ポスドク転職物語 01〜05

ポスドク、打ちのめされる。

物語はセミナーの一場面から始まります。この場面で描かれているような教授とのやりとりはポスドク時代にも本当によく経験しました。思い出すと、今でも少しホロ苦い気持ちになります。

基礎研究といえば大らかな印象が強いかもしれませんが、成果主義の波はアカデミアの分野にも着実に押し寄せており、実験結果に対する要求は年々厳しくなってきています。このようなことに対する弊害については、物語内でも徐々に触れていくことになります。

ポスドク、振り返る。

本文中にあるとおり博士課程を終了した学生は博士研究員=ポスドク、として研究に従事することになります。博士のことを英語でドクターと言いますので、ドクター後という意味で「ポスト−ドクター」、これを縮めてポスドク、と呼んでいるのですね。

大学院というのは修士課程と博士課程を合わせると5年間通うことになりますので、学部時代を合わせると実に9年間も大学に在籍することになります。晴れて学生の身分から解放されたと思っても、すぐに「正社員」として就職できることは稀で、そこからは単年度契約を基本とした契約社員扱いとして研究をスタートすることになります。アカデミアの場合で「正社員」というと、教授などごくわずかの任期のないパーマネント職につくことを意味しますので、ポスドクがアカデミアで正社員のポジションを見つけるには熾烈な競争に勝ち残る必要があります。

仮に浪人・留年を一切せず、大学院もきっちり5年で卒業できたとしても(ここが1番難しい)、社会人としてのスタートラインに立つのは28歳ということになりますから、キャリアビルディングの観点から見れば非常にリスクの大きい道といえるでしょう。

ポスドク、疑問を持つ。

ここでは田所研に見え隠れする問題を、ミーティングのやり方という観点から炙り出そうとしています。

ケンドーの所属するラボでは、どのような実験をどのようにおこなうかの判断は田所教授が判断し、それをどのように発表するかについて研究員の意見は尊重されません。また、うまくいかなかったデータを出すことに対して否定的な態度を取っており、これは実験データの意図的な修正や捏造を生む、強力なインセンティブになっています。

これを企業に例えるのならば、ワンマン社長の売上至上主義のせいで、営業が架空の取引を計上して利益を水増しするような話しに似ているでしょう。ただし企業の場合は脱税や粉飾などの不正行為が発生しているかどうか、常に外部機関による監視の目が光っています。税金を納めるために必要な経営指標は税務署によって監視されていますし、上場企業の財務情報は監査法人によりチェックされています。

翻って研究室経営はどうでしょうか。独裁的な研究責任者や、研究結果が秘匿されるような組織風土を監視する外部機関は残念ながら存在しません。昨今、大学の研究室が組織ぐるみでデータの捏造に関わっていたという報道が盛んに聞かれるようになりましたが、問題の原因はそのあたりにありそうです。

マネージメントの権限が本来の職務範囲を超えたり、情報の風通しが悪いために組織にとって不都合な事実が隠匿される。これは研究室運営にかぎらず、あらゆる組織において重大なリスク要因とされています。このような環境をもつ組織は必ず何らかの形で不正行為が行われるというのが、人類が経験してきた歴史の教えるところなのです。

さて、一見して「ブラック」な印象の田所研究室ですが、果たしてその実態はどうなのでしょうか。

ポスドク、相談する。

研究の要はオリジナリティの追求といっても過言ではないでしょう。いかに人と違う発見をするか、その点に研究者は心血を注いでいるのです

一方で研究者には専門という領域がありますので、あまりにも普段の研究からかけ離れた分野の仕事をするは、それはそれでためらいを感じるものです。このあたりは、研究者個人のバランス感覚ですかね。

ビジネスも人と同じ事をやっていては価格競争にまきこまれるだけですから、オリジナリティのある商売の仕方を考える必要があります。そうはいっても、消費者に見向きもされなければ日銭を稼ぐことすら出来ませんから、新規事業の立ち上げは勇気がいるものです。そういう意味では、ビジネスも研究もよく似ているかもしれません。

実際に転職して一般企業で働くようになって分かったのですが、ビジネスの現場でも田所教授のように新しいことを嫌い、堅実な方法を好む人と、ケンドーのように積極的に新しいことに取り組もうとする人が、それぞれ一定の数でいることに気付かされます。一説によれば、新奇性追求の性格はかなりの部分が遺伝によって説明できるということですから、保守的か革新的なのかは案外生まれつきの性質なのかもしれません。

今までと同じ事をして失敗しても責められることはあまりないかもしれませんが、新しいことをしてうまくいかなければ、最初からやらなければよかったと非難されることもあるでしょう。ですから、新奇性追求組は損をしていることが多いような気がします。個人的には、サイエンスの世界ではとにかく新しいことをするような人材を大事にするべきだと思っています。田所教授のように、頭ごなしにアイディアを潰すようなやり方は、研究の世界には似つかわしくないのではないでしょうか。

ポスドク、人生の天秤について考える。

やっていて楽しいことと、やっていてお金になること。この2つを私たちは無意識に天秤にかけているような気がします。平日は一生懸命仕事をして、週末は趣味に打ち込む。そんな当たり前のことに疑問を投げかけるのがこの本です。

「大富豪」というタイトルからは拝金主義的な内容を想像してしまいがちですが、本書は本当に幸せに生きるためにはどうしたらいいのかという知恵が、極めて素直で真摯な態度で書かれています。本文中に掲載したグラフも、この本からの引用です。

研究者の醍醐味というのはなんといってもやりたいことを自由にできることだと言われています。その分、金額的な報酬はそこそこといったところでして、ポスドクの年収はおおよそ300−400万円といったところではないでしょうか。ただし、任期付きのポスドクというのは年齢が高くなるに連れて給与が上がるというものではありませんので、大学院を出たばかりの若手も、40歳前後の中堅ポスドクも、だいたいこのあたりの年収で働くことになります。

さらにいえば、本当にやりたい研究をするには自分で研究費を取ってこなければいけませんので、ケンドーのようにプロジェクトチームの一員として研究している場合は、自由度という意味では企業で研究するのとあまり変わらないかもしれません。であれば、収入も安定度も低いアカデミアの世界でわざわざ研究する意味は一体何なのでしょう?黒岩さんの言葉はケンドーにそんな疑問を投げかけています。

普段何気なく暮らしていると気づかなくても、このグラフのどこに自分がいるのかあらためて考えてみると、明日から自分がとるべき行動が見えてくるかもしれません。変えるべきは、現状のアカデミアの問題点や研究室の本来のあり方ではなく、自分が主体的にどう動くのか、です。あまりにも有名になってしまいましたが、<7つの習慣>という本の最も最初に掲げられている習慣が、「主体性を発揮する」です。未読の方は今からでも遅くありませんので、是非手にとって読んでみてください。

さて、次回からはケンドーがいよいよ自らの人生の舵を、自分で切り開いていくことになります。

ポスドク転職物語の副音声【覚醒編】

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